北欧発デザインの椅子 ハンスJ・ウェグナー

北欧発デザインの椅子 ハンスJ・ウェグナー

以前の記事でハンスJ.ウェグナーの人生について学びました。
今回はウェグナーの椅子について、グループごとに分けて紹介します。
 

 

チャイニーズチェア

1943 フリッツ・ハンセン / FH-4283
W570×H550×D815 SH455mm
チェリー+レザー
 
中国の明代のクァン・イという椅子を参考にデザインしたものです。
後部から側面にかけてが優美なラインで湾曲する笠木が特徴となっており、リ・デザインによって自分の作風やスタイルを作り上げるルーツとなった椅子と言えます。
この椅子のデザインには、コペンハーゲン美術工芸学校時代のクラスメートで親友、王立芸術アカデミーに進学したボーエ・モーエンセン美術工芸学校や王立芸術アカデミーで教鞭をとったコーア・クリントの2人が影響を与えています。コーア・クリントは、過去の名作をデザインソースに、それを現代の生活に合うようにリ・デザインするのが有効な手法であると説いていました。その教えを忠実に守るクリント派のモーエンセンは、当時アメリカのシェーカー家具に自身のデザイン上のテーマを見出し、シンプルで安価、それでいて高い品質というモーエンセンの理想が反映されたスタイルを見つけ出していました。ウェグナーはそんな親友の姿を見て焦りを抱いていましたが、クリントのプロセスにのっとり、クァン・イを写す形でチャイニーズチェアを発表。リ・デザインを繰り返していくこととなります。クァン・イは、1939年にニューボーから移ったオーフスの図書館にて、オーレ・ヴァンシャー著『MØBELTYPER』(家具様式)で目にしていました。
 
 

ザ・チェア

チーク+籐張り  
 
アメリカ大統領のJ.F.ケネディがテレビの討論会で座ったことでも有名なウェグナーの代表作といえる一脚。優美な曲線を描く笠木、籐張りの座面がクラフトマンシップを感じさせる。アームと背はの接合部分は、フィンガージョイントで美しく接合されており、アクセントにもなっている。現在も、PPモブラー社の職人によって、丁寧に仕上げられている。
 
 

Yチェア

オーク+ペーパーコード
 
ウェグナー最大のベストセラーを記録している一脚。2011年には日本の特許庁に外観そのものが立体商標として登録されていて、日本でも特に人気の高い椅子ともいえる。
機械によって木材をカットし、ヤスリ掛けや組み立て、座面のペーパーコード張りの作業などは人の手で行われている。個性的だが自己主張しすぎない滑らかなデザインで、機械による作業の導入によって価格が抑えられている。
 
 

カウホーンチェア

1952 PPモブラー社 / PP-505
オーク+籐張り
 

ザ ブルホーンチェア

1960 PPモブラー社 / PP-518
チーク+籐張り
 
後脚だけで笠木を支える形式の椅子の中でも、動物の角に例えられた 「ホーンシリーズ」。美しい曲線を描く背もたれからひじ掛けにかけての造形が、チャイニーズチェアの流れが感じ取れる。ひじ掛けの長さや背もたれの幅など、いくつものバリエーションがデザインされ、10種類以上あるといわれる。
 
 

スゥイベルチェア

1970 ヨハネス・ハンセン社 / JH-502
チーク+レザー
 
木工マイスターであるウェグナーのデザインはすべて木製のものが多いが、この椅子の木製部分は大きな笠木のみとなっている。背もたれ部分に左右のひじ掛けを接続した構造。
 
 

ウインザーチェア

ウインザーチェアとは、17世紀に農民が自ら作った日用品としての椅子を原点とした、丈夫で無駄がない実用的なデザインの椅子です。製造に関しては、1脚の椅子でも外枠、スポーク、座、脚と分業によって作られていたのが特徴的で、近代の椅子づくりの分業生産体制始まりともいえます。コーア・クリントボーエ・モーエンセンがイギリスの様式家具をモチーフにしたように、ウェグナーも18世紀ごろの英国様式のリ・デザインを多く残しています。先人の知恵に加えて、量産性を考慮した美しいデザインで、ウェグナーの知名度を上げる一因にもなりました。

 

ピーコックチェア

1947PPモブラー社 / PP-550

アッシュ

 

ピーコックチェアは、クジャクが羽を広げた姿に似ていることから名づけられた。装飾的な意味だけでなく、背中のあたりを良くしたいというウェグナーの想いから、スピンドルの一部が幅広にデザインされている。その形状から「アローチェア」とも呼ばれる。放射線状に配置されたスピンドルの上端を大きく湾曲した曲木が支える形は、従来のウインザーチェアのイメージから飛躍しており、当時のデンマークモダン家具デザインの象徴的な存在となった。

 

サークルチェア

1986 PPモブラー社 / PP-130

アッシュ・ファブリック

 

ヨット用のロープを用い、放射線状に広がったデザイン。座り心地を考慮し、結び目ではなく金具をで処理している。

 

 

イージーチェア

イージーチェアは、ゆったりとしたサイズ感で一人の時間を寛ぐための一人掛けの椅子のことをいいます。ウェグナーはこのタイプの椅子も数多く手がけており、イギリス様式を取り入れたものやシェーカー様式を取り入れたものなど様々です。チャイナチェア系のようにウェグナー独自の作風はここでは見られず、様々な作風から自分に合ったものはどれなのか、どこにリ・デザインの余地があるのかなどを検討していたように感じ取れます。

 

ドルフィンチェア

1950 ヨハネス・ハンセン社 / proto type

オーク+籐張り

 

座面がそのまま後脚となり、さらに肘掛けに繋がるデザイン。座面の延長上に後脚があるために、体を椅子に預けるような姿勢になる。ウェグナーの初期デザインには、ドルフィンチェアのように折り畳みも可能なものが多い。製造はされず、プロトタイプに終わった。

 

フォールディングチェア

1949 ヨハネス・ハンセン社 / JH-512

オーク+籐張り

 

折りたたんで持ち運びしやすいよう、持ち手がついている。座面下にはフックのついた壁に掛けられる溝がデザインされている。

  

ベアチェア

1960 A.P.ストーレン社 / AP-69

スチールレッグ+レザー

 

ウェグナーは大きな椅子も作っている。不規則で有機的な形が、生命を感じさせる。大きく太いアームや突き出したヘッドでどんな姿勢にも対応し、しっかりと受け止められるようなデザイン。

 

スリーレッグド シェルチェア

1963 カール・ハンセン&サン社  / CH-07

ビーチ+ファブリック

 

当時の新素材、プライウッドを用いたイージーチェア。積層合板の豊かな曲線のシェル構造が美しい。

 

フラッグハリヤード チェア

1950 PPモブラー社 / PP-225

スチール+シープスキン+レザー

 

ウェグナーは木製の椅子で有名だが、スチールを使用したものも発表している。木よりも比較的自由な素材であるため、木製の椅子とはまた違ったデザインとなっている。人肌が触れる部分は、レザーや紐などの天然素材を用いるこだわりも見られる。フラッグハリヤード チェアもその一つで、異素材同士が美しく調和されている。

 

バレーチェア

 1953 PPモブラー社 / PP-250

オーク

 

ウェグナーは3本脚の椅子を美しくデザインしている。バランスよく立つ4本脚と比較すると、狭い場所や凹凸のある地面の上などの不安定な場所に適している。バレーチェアは前脚が2本、後脚が1本のタイプで、背はハンガーに、座面は立てるとスラックス掛けになる。また、座面下には小物入れがあり、ウェグナーのユーモアあふれるデザインである。

当時のデンマーク国王は、手元に届くまで2年間待っても構わないと気に入り注文したというエピソードもある。

  

  

ウェグナーは生活に密接な使用者のことを考えた、様々なジャンルの椅子を手掛けていたのですね。どれも温かみのあるこだわりがみられ、今も愛される理由の一つとなっていることがわかりました。

 

 

参考文献
『美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン』えい文庫
『流れがわかる! デンマーク家具のデザイン史: なぜ北欧のデンマークから数々の名作が生まれたのか』誠文堂新光社
『ストーリーのある50の名作椅子案内』スペースシャワーネットワーク