北欧初デザインの椅子 ボーエ・モーエンセン
前回の記事で、ボーエ・モーエンセンというデザイナーがどのように暮らし、どのような流れで家具づくりに向かっていったのかをなぞりました(以前の記事:北欧家具の有名デザイナー ボーエ・モーエンセン)。
今回はそんなモーエンセンが手がけた椅子について、ターゲットを分類してご紹介します。
庶民のための椅子
ボーエ・モーエンセンは、FDBモブラーでデンマーク市民のためにモダンで実用的かつ、低価格な家具づくりを行います。リ・デザインの手法を用い、多くの人に届くように美しく、様々な生活空間に馴染む椅子のデザインに取り組みました。
当時その目標通りとはいかず、手に取った多くの人々は、世の中の動きに敏感な中流階級〜上流階級の人々でしたが、後に一般市民にも広く届き、生活水準の向上へと貢献しました。
J6
J4
1944 F.D.B
ビーチ
1944年発表の、FDBモブラーによる最初のオリジナル家具シリーズとして、イギリスのウィンザーチェアをリ・デザインしたもの。背が櫛型のコムバックタイプのJ6(のちに改良してJ52として現在も販売される)、背が弓型のボウバックタイプのJ4。戦時中、ソファーなどの張り物を購入することが難しい庶民のため、木製シートながらも安楽性が高く、編み物などの作業にも使えるようにデザインされている。
J39
1947 F.D.B〜クヴィスト社
オーク+ビーチ
数々の名作を生み出したボーエ・モーエンセンの椅子の中でも、代表作といえる椅子である。デンマークにおいて、ヤコブセンのセブンチェアやウェグナーのYチェアに匹敵するほどよく見かけるのが、J39。デンマークの近代家具デザインの基礎を築いた、王立芸術アカデミー家具科の主任教授を務めたコーア・クリントから学んだモーエンセンは、デザインをクラシックに求め、リ・デザインの手法を使用していた。J39は、19世紀にアメリカで生まれたシェーカーチェアをその対象としており、現代の暮らしにあわせてリ・デザインを行った。また、クリントによるチャーチチェアのリ・デザイン、シェーカーチェアをさらにリ・デザインしたものともいえます。発売当時は、戦後の物不足で座面のコードは藁紐を使用し、地中海沿岸の農民の伝統の編み方を用いるなどの工夫が凝らされ、Folkestolen「庶民の椅子」との愛称で親しまれ、多くの市民から支持された。1956年には、J39を進化させたダイニングチェア3236が発表された。
ハイバックイージーチェア
1956 エアハルト・ラスムッセン社〜フレデルシア社/2254
オーク+布クッション
蝶番で繋いだ背と座をスライドさせる方法でリクライニングできる安楽椅子。構造を単純化しシンプルにし、コストも抑えられたうえで、デザインや座り心地を追求したモーエンセンらしい1脚。一見そのようには思われないが、張りぐるみを被せる前のウィングバックチェアのフレームがこの椅子のフレームに近いことから、ウィングバックチェアのリ・デザインしたものともいえる。
富裕層向けの椅子
モーエンセンは、FDBモブラーで庶民のための家具を作りながらも、キャビネットメーカーズギルド展のための家具ではより自由に高級な木材を用いた家具も手がけています。また、FDBモブラーを離れた後は、それまでとは異なる新たな方向性のもとでさまざまにデザインを行なっていきます。
スポークバックソファー
1945 ヨハネス・ハンセン社〜フリッツ・ハンセン社/BM1789
ブナ(初期:オーク)+布クッション、レザークッション
日本ではスピンドルバックチェアとも呼ばれるソファ。1945年のキャビネットメーカーズギルド展において、ともに31歳のモーエンセンとウェグナーが協力してブースを出す。その際に、モーエンセンがリビングルーム用にデザインした。イギリスのウィンザーチェアを若い感性でリ・デザインしたもの。張りぐるみでないため軽やかな印象があり、片側の肘掛け・背もたれが、革紐の結び目によって6段階に角度調節できる面白いリクライニングである。
ハンティングチェア
1950 エアハルト・ラスムッセン社〜フレデルシア社/2229
オーク+革張り
モーエンセン独立以後最初にデザインした椅子。「ハンティング・ロッジ」がテーマの1950年キャビネットメーカーズギルド展で発表された。座のフレームが、そのまま背後に繋がり脚となる構造や、革の張り方もさまざまに模索されたと考えられる。素材の選定もFDBモブラー時代とは明らかに異なるもので、その後のダイニングチェア、スパニッシュチェアなどの革張りの椅子の原点となる。
ソファ'71
1971 フレデルシア社/2192
オーク、マホガニー、チェリー+革張り
ボーエ・モーエンセンが58歳で亡くなる前年のデザイン。イギリス、ホール・ポーター呼ばれる様式のリ・デザイン。
参考文献『美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン』えい文庫『流れがわかる! デンマーク家具のデザイン史: なぜ北欧のデンマークから数々の名作が生まれたのか』誠文堂新光社『ストーリーのある50の名作椅子案内』スペースシャワーネットワーク