椅子のデザイン③ スチールパイプを用いた名作椅子

椅子のデザイン③ スチールパイプを用いた名作椅子

名作椅子と呼ばれるものは、様々なジャンルのものがたくさんあります。

今回はスチールパイプを用いた椅子を、いくつかピックアップしてご紹介します

(以前の記事:椅子のデザイン①

 

 

S33チェア

1927年 マルト・スタム

  

キャンチレバー構造の椅子として世界初とされている椅子デザインの歴史の中で重要な役割を持つS33。

ガス管を用いるなど試行錯誤の結果生み出された、4本の脚を使わずに立つことができる椅子となっている。スチールと革の組み合わせはシンプルな中にも気品がある。マルセル・ブロイヤーは1928年にチェスカチェアを発表しており、のちにミース・ファン・デル・ローエなど多くのデザイナーがこのキャンチレバー構造を発展させている。

この椅子のデザイナー、マルト・スタムはオランダの建築家である。建築家としてはドイツのヴァイセンホフ実験住宅プロジェクトへの参加によって国際的に認められる。都市住宅における実験で現代の都市居住者の期待と要求に応えられるような革新的な材料と建築方法を探究するこのプロジェクトは、ヴァルター・グロピウスミース・ファン・デル・ローエル・コルビュジエら巨匠たちも参加した。スタムの設計した建物は、透明感のある構造を備えたモダンな住居。機能的ななうえに、見た目が非常にシンプルで軽やかな印象はS33に見られる特徴が建物にもみられる。1920年代終盤には、バウハウスの講師も務めている。

 

   

ビベンダム

アイリーン・グレイ

1926年 クラシコン 

 

ビベンダムはスチールパイプを用いたレザーのアームチェア。グレイが愛したライオンをモチーフに、抽象的に線画として描いたものといわれている。当時、バウハウスマルセル・ブロイヤーらがスチールパイプの椅子に取り組んでいたが、それらは構造美、機能美を追求したストイックなもの。こちらは柔らかさとウィットのある作品である。

ビベンダムのデザイナーアイリーン・グレイは、アイルランド生まれの女性建築家で、ロンドンのスレード美術学校に入学を許可された最初の女性でもある。1900年、パリに移住し、日本人の菅原精造(東京美術学校(現東京芸大)卒業後の明治38年、渡仏後生涯を漆工芸の発展に尽くした人物。アール・デコの工芸に大きな影響を与えた。)から漆工芸を学び、漆塗の衝立と装飾用パネルを専門とする事務所を開設するなど、日本とも関わりの深い人物。

1920年台なかば、40歳を過ぎた頃、アイリーン・グレイは建築家であり編集者であった恋人のジャン・バドヴィッチと共に、別荘「E1027」の設計に取り掛かる。ル・コルビュジエが唱えた「近代建築の5原則」に則った近代的なデザインのE1027のための家具として、ロクブリュヌ・チェア(1927年ごろ)などもデザインしており、ビベンダムもその中の一つである。

 

 

LC2

ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン

カッシーナ 1929年

 

スチールパイプのフレームに、背、座、アームのクッションを落とし込むという簡単な構造ながら、クッションを取り巻くスチールバイプは、巧みな曲げと溶接、磨きにより、美しい曲線が生み出されている。単純な幾何学形状によってモジュラー家具のような印象も受けるが、光沢のあるスチールと豪華な革が上品さと快適性をもたらす。

LC2は、いとこであるピエール・ジャンヌレシャルロット・ベリアンとの協働により1929年に発表された。ペリアンはル・コルビュジエの考えを具体化する大きな役割を担っていたという。

  

 

 

参考文献

『ストーリーのある50の名作椅子案内』萩原健太郎 , スペースシャワーネットワーク

『名建築と名作椅子の教科書』アガタ・トロマノフ , エクスナレッジ