家具・インテリアにおいて考えたい心理的な距離感 座席との関係

家具・インテリアにおいて考えたい心理的な距離感 座席との関係

以前のページでパーソナルスペースについて少し知った上で、特に空間における座席指定について、例を挙げながら紹介します。

 

コミュニケーションと心理

座席の距離

人間が自然に話し合える範囲は、相手に触れることが可能な距離だと言われています。距離が遠くなると、無意識のうちに声が高くなったり、話し方が不自然になったりするため、声は届いても話の内容は伝わらず、疲労も増し、コミュニケーションの効率も下がってしまいます。情報伝達の密度は、距離によって変化するのです。

例として、会議室の机が考えられます。大きな会議室で天板の大きいテーブルを使用した場合、相互の距離が大きくなるため声が大きくなり、話も他人行儀で上品になります。会議室の設計では、この点を考慮する必要があり、イギリスの国会議事堂の椅子が向かい合いになっているのは、それを踏まえての設計だと考えられます。会議でテーブルの間の距離を離すと、討議の密度は薄くなってしまいます。

大学の講義室の例では、千葉大学教授の望月衞氏の調査において、大講義室では学生の成績と教壇からの距離とは比例関係にあり、近くにいるものほど成績がいいという結果が発表されています。しかし現在の講義室は、300人収容の部屋を500人収容に見えるようにするといった具合に、実際よりも広く見せることを大切にされる傾向が見受けられます。それによって、情報伝達においてより有効な前方のゾーンに、学生が座らない状況が生まれています。劇場などは、狭い空間をより広く見せることが重要ですが、講義室に関してはその逆だと言えるのです。

  

位置関係

次に、お互いの関係位置が変わると、会話の内容も変わってくることについて。

例えば、身の上相談をするとき。正面に向かい合うよりも、斜めの位置にして視線を逸らすと緊張や圧迫感が減り、気楽に喋ることができます。親しいもの同士であれば、横に並んで触れ合うくらいに座った方がより親密で、話が他人行儀にならなくて良いとも考えられます。

勉強の個別指導を考えても同様で、机を挟んで正面に向かい合うより、直角の位置に座った方が能率が上がる結果が出ており、距離感だけでなく座席の位置関係が心理に大きな影響を与えることがわかります。

また、日本の応接セットは、正面に向かい合わないのは失礼に当たるという発想で作られていますが、外国では、直角に座るか並んで座るものが多く見受けられます。家庭教師と同様に、直角の方が抵抗を感じずに、自然な会話ができるからです。

四角形のテーブルを囲むとき、日本では短い方の端に主賓が座り、長手の両側に大勢が並びます。これは、大名が将軍の謁見を受ける際の風習が残っていると考えられます。「最後の晩餐」の絵画でもみられるように、ヨーロッパでは主賓は長手の中央に座りますが、それはそのほうが相互の距離が近く親密感が増し、話がしやすいためです。

日本では昔から、コミュニケーションをとることよりも、立場や権力を示すことが長く重要視されてきたのかもしれませんね。

 

  

自然で活発なコミュニケーションを生む座席としては、仲の良いもの同士はより親密感が高い近づいた距離感と位置を守った座席だと言えます。近い距離で同じ視線で対話することが、より親密なコミュニケーションを育みます。しかし、特に親しくない間柄の場合など、互いのパーソナルスペースを守ることは大切です。真正面ではなく直角の位置関係にするなど程よい距離を保つことも、ナチュラルな関係を築くために大切です。

距離だけでなく、互いの視線を含めた位置関係など、非言語的なコミュニケーションを考慮することは、ナチュラルなコミュニケーションへとつながります。

  

  

  

ここまでコミュニケーションを取るべき場面での話でしたが、他人との関わりを持ちたくない場面での座の位置も当然考えられます。

例として挙げるのは図書館です。

図書館の中で、机が埋まっていく様子を見ていると、まず1番目の人は部屋の隅の机に座るというように、相互の距離の遠いところから埋まっていきます。

また、イーストマンとハーバーは、図書館の閲覧室内で複数配置されたテーブルに利用者がどのように着席するかを詳しく調べており、

①誰も座っていないテーブル席が最も好まれる。

②どのテーブルにも人が座っていれば、他の人々から最も遠い席が次に好まれる。

③背中合わせに座ることができる席は、隣あって座る席よりも好まれる。

④部屋の座席の60%が埋まると、新しく入ってきた利用者は他の部屋に行く。

の順で席が埋まっていく結果を得ています。

このような座席選択の傾向は、レストランの座席の埋まり方や、電車の中の座席の閉められ方などでも見受けられます。どれも心理に関わる座席選択の傾向です。

  

 

 

居心地の良い空間は、コミュニケーションを取りたい場面・取りたくない場面のそれぞれを考慮の上で、インテリア設計がなされているのではないかと思います。カフェやレストランなど、これらを頭に留めながら辺りを見渡すと様々に発見があると思います。また、個人差があるため難しい点ではありますが、自宅の生活空間を設計する際にも考えられると良いかもしれませんね。

 

参考文献

『新装インテリアの人間工学』監修  小原二郎, 著 渡辺秀俊, 岩澤昭彦, ガイアブックス