今さら聞けないアルヴァ・アアルト。生活を彩る自然の魅力を多く取り込む

今さら聞けないアルヴァ・アアルト。生活を彩る自然の魅力を多く取り込む

アルヴァ・アアルトというフィンランド出身の建築家兼デザイナーをご存じでしょうか。


実はフィンランド最大級の書店「アカデミア書店」は彼が設計したのです。そしてこの書店は、荻上直子監督の映画『かもめ食堂』のロケ地にもなっています。


フィンランド人は読書好きな人が多く、それを裏付けるように図書館利用率も世界一位というランキングです。そのため国内最大級の書店を設計できるのは、よほどその実力が認められた建築家にしか許されないでしょう。


アルヴァ・アアルトはどうしてそこまで世に認められる建築家兼デザイナーになれたのでしょうか。

 

アルヴァ・アアルト。人々から絶賛された建築家

アルヴァ・アアルトは20世紀を代表するフィンランドの建築家です。

 

彼は建築家にとどまらず、家具のデザインやプロダクトデザイナー、そして自身が設立したアルテック(Altek)社の経営者として、モダニズム文化を促進するなどあらゆる方面で活躍しました。

 

彼の代表作である汎用性の高い椅子「スツール60」にも見られるように、木材を有機的なフォルムに曲げ、なおかつポップで機能性の高い作品を生み出しています。

 

フィンランドという土地柄、常に寒さがつきまとう生活ですが、せめて家の中だけでも快適に寛げるようにと熟考の末、あたたかみのある作品を発表し、フィンランドだけでなく世界中でも北欧家具として愛され続けてきました。

 

彼のもう一つの顔である建築家としては、人々から絶賛される建築を作り上げたのです。

 

それは先ほど冒頭で触れたアカデミア書店だけではありません。彼の遺作にもなった市民に愛されるタウンシアター、彼の手掛けた数多くの住宅の中でも最高傑作だといわれる、自然と住宅の調和が素晴らしいマイレア邸などがあります。

 

また、アルヴァ・アアルトは晩年にフィンランド・アカデミー会長を務めあげました。

 

幼少期から測量や製図を学び建築家を志すアルヴァ・アアルト

アルヴァ・アアルトは1898年にフィンランドのクオルタネで産声をあげました。

 

父は測量技師のヨハン・ヘンリク・アールトで、母はセルマ・ハクステットです。彼の家系は代々国有林を管理する公務員の森林官で、このことはアルヴァ・アアルトにとって後に大きな影響をもたらすことになります。

 

彼は幼少期から父に製図や測量を学び、また絵が好きだったことから建築家になることを夢見ます。

 

大学生になったアルヴァ・アアルトは、ヘルシンキ工科大学で建築を学び、着実に建築家への道を歩んだのです。大学在学中には彼の両親の家の設計も手掛けました。

 

大学卒業後、彼は自身の建築設計事務所「アルヴァ・アアルト」を立ち上げます。この事務所の名前でもある彼のペンネームを「アルヴァ・アアルト」にした理由は、建築家リストのトップにくるようにするためです。

 

そして1924年には彼は大学在学中に知り合ったアイノ・マルシオとめでたく結婚します。

 

アルヴァ・アアルトとアイノ・マルシオはお互い建築家としてリスペクトし合い、作品を共同で作ることもありました。

 

その後、建築から日用品や家具、それから絵画など人々の生活に欠かせないあらゆるものをデザインし、世界中の人々を釘付けにしたのです。

 

木造建築を現代にリバイバル。木の魅力の復権

アルヴァ・アアルトは「より良いものを毎日の生活に」というコンセプトで生活に関わる建築や家具、それからキッチン用品などを手掛けました。

 

彼がデザインした建築はとりわけ、有機的なフォルムと木の使い方が特徴です。アルヴァ・アアルトが建築家として活躍し始めた1920年代は、コンクリートや鉄、ガラスなどの大量生産で作り出される素材で建てられたモダニズム建築が人気を集めていました。

 

一方でそれまでの木造建築は時代遅れとみなされていたのです。

 

森林官の家系に生まれて幼い頃から木に親しみがあったアルヴァ・アアルトは、このことに疑問を抱いたのか、木などの自然素材の美しさを活かした作品を多く生み出しました。

 

彼の活躍が功を奏し、人々にぬくもりと安らぎを感じさせる木の魅力を人々が認め、北欧デザインが確立していったのです。

 

今もなお世界中の人々に愛される北欧建築デザインの祖はアルヴァ・アアルトといえるでしょう。

 

療養者が元気になれる設計と細かな配慮が多数の支持

アルヴァ・アアルトは、フィンランドの結核療養所の設計コンペティションで一等賞を獲得したのをきっかけに設計を担いました。

 

場所はトゥルク近郊で、周囲は森に囲まれていて自然が多いため、それらを活かした機能主義とよばれる建築様式を用いて建てられたのです。

 

病室は窓から木々の間を太陽が差し込んでいる景色が見えるような設計になっています。

 

またアルヴァ・アアルトは患者が気持ち的にも元気になれるように明るい色を用いて床の色をデザインするなど、設計にあたってあらゆる配慮と工夫を施しました。

 

それだけでなく妻と一緒にパイミオ・チェアという名のアームチェアも製作しました。このチェアはアルヴァ・アアルトの得意分野である、木材を柔軟なフォルムに曲げる技術を用いています。

 

このことをきっかけにしてアルヴァ・アアルトの名はたちまち世間に広がり、本格的に家具デザイナーとしても活躍を広げるようになったのです。

 

アルヴァ・アアルトの代表作3つ「スツール60」など

アルヴァ・アアルトの作品の特徴は、なんといってもスタイリッシュで機能性が高く、心安らぐあたたかみのあるデザインであるということでしょう。

 

特にフィンランドの伝統的な材木を上手に使っています。そんなアルヴァ・アアルトの名作をご紹介します。

 

スツール60

スツール60は円形の座面とL字に曲げた三本の脚で出来た木製の椅子です。最小限の材料で出来た場所を取らないシンプルな椅子でありながらも、愛着の湧くポップなデザインがポイントです。

 

軽量で部屋のどこへでも持ち運ぶことができ、使わないときは椅子を積み重ねて置いておくこともできます。椅子として使うだけでなくベッドサイドテーブルとして活用でき、観葉植物を置く台としての相性は抜群です。

 

なおこのスツールは三本の脚が一般的ですが、より安定感を追求して制作された四本脚バージョンも展開されています。

 

このスツール60はアルヴァ・アアルトの象徴的な作品です。このスツールは数百万脚以上がフィンランド国内外に出荷され、地域や時代を問わず今もなお愛され続けています。

 

A331

A331は、ビーハイブとも呼ばれるペンダントライトです。

 

ビーハイブは英語でハチの巣を意味し、その名の通りA331もハチの巣のようなチャーミングなフォルムで人気を博し、アルヴァ・アアルトが手掛けたライトの中でもA331は特に高い評価を受けました。

 

洗練された上品なデザインで空間をおしゃれに演出するため、住宅や飲食店でも愛用されています。またこのライトは眩しい光ではなく、柔らかい光になるように間接的に空間を照らすよう工夫をこらしています。

 

単におしゃれなライトなだけでなく緻密な計算の上で完成されたライトなので、フィンランドの大学も採用するくらい秀逸な作品です。

 

アアルト・ベース

アアルト・ベースも生活を彩るアイテムのひとつです。有機的な曲線が特徴的なこの花器は、花を生けるだけでなく、水を入れて光の反射を部屋に映し出す使い方もされています。

 

花器の口が広いため、お花を束のままバサッと生けることができるため、手軽に部屋を飾れるのは魅力です。

 

今でもよく見るアアルトベースのフォルムの元は、イッタラ(ittara)社が1936年にガラス製品のデザインコンペを行った際に優勝したデザインです。さらに翌年に行われた「パリ万国博覧会」で展示され、広く知られるようになりました。

 

この美しい曲線は、アアルト自身がフリーハンドで描いたスケッチから生まれたという逸話もあります。この完成されたデザインは、アアルトのアイコン的な存在になり、フィンランドデザインの象徴としても知られています。

 

生活のグレードをあげたアルヴァ・アアルトとAltek社

1935年にアルヴァ・アアルトは建築家である妻、実業家のマイレ・グリクセン、美術史家のニルス・グスタフ・ハールを集めてアルテック(Altek)という名の家具メーカーを設立しました。

 

このアルテックという社名はアートとテクノロジーを掛け合わせた名前で、モダニズム運動を想起させるキーワードを合わせた造語です。

 

そのことからも分かるようにアルテックは単に家具を販売するだけでなく、モダニズム文化の発展のための啓蒙活動も行いました。

 

また国内外のモダニズム芸術を紹介するなど、活動は多岐に渡っています。

 

なぜそこまでアルヴァ・アアルトは業務内容を広げたのかというと、彼の友人である美術史家のグレーゴル・ポールソンが提唱した「より良いものを毎日の生活に」というスローガンに影響を受けたからです。

 

アルヴァ・アアルトの家具はほとんどアルテック社から販売されています。

 

特許を取得したアルヴァ・アアルトの家具は、国内外問わず高い評価を受けました。ヘルシンキにアルテックの直営店が1936年にオープンし、モダニズム文化を広める新拠点になったのです。

 

まとめ

アルヴァ・アアルトの生涯や彼が手掛けた渾身の作品をご紹介しました。

 

彼は「より良いものを毎日の生活に」という友人から影響を受けた言葉を胸に、作品作りに勤しんだのです。それを体現しているのが今回ご紹介したアアルトベースやA331です。

 

A331においては、何も考えずに作ったらライトが直接空間を照らして眩しすぎて困りますが、その点を熟慮して間接的にライトが当たるように工夫しました。

 

そして彼はフィンランドの伝統的材料の木材をうまく使って、スツール60やパイミオ・チェアから見てとれるように木材を活用した家具作りをしたのです。彼がそこまで木材を愛するのは、彼の家族の影響も少なからずあるのでしょう。

 

フィンランドはとても寒く、北欧の中でも一番冬期が長い国です。

 

そのため生活の中にあたたかみを感じられるような家具や、陽の光を感じられるような建築物を作りました。そうしたアルヴァ・アアルトの思いや作品作りにおける気遣いが、今もなお彼のファンが絶えない理由なのでしょう。

 

【参考URL】

・Wikipedia アルテック (家具)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF_(%E5%AE%B6%E5%85%B7)

 

・Wikipediaアルヴァ・アールトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%88

 

・北欧デザインに潜む、静かなるアンチテーゼ。アルヴァ・アアルト──もうひとつの自然

https://ginzamag.com/culture/alvaraalto2018/

 

・北欧建築デザインの祖、アルヴァ・アアルトの魅力と代表作5選

https://media.eurasia.co.jp/europe/aalto#%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%82%AA%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0

 

・近代建築の巨匠といわれるアルヴァ・アアルト|歴史や代表作を紹介

https://timberyard.net/cozylife/connect/alvar-aalto/#60

 

・北欧から新しい建築の姿を模索した、建築界の巨匠「アルヴァ・アアルト」とは!?

https://hash-casa.com/2020/02/16/alvaraalto/

 

・【徹底解説】アルヴァ・アアルトの人生と作品に迫る

https://euphoric-arts.com/art-2/alvar-aalto/

 

・スツール 60 ナチュラル ラッカー

https://webstorejapan.artek.fi/products/stool-60-natural-lacquer

 

・Wikipedia かもめ食堂

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B%E3%82%82%E3%82%81%E9%A3%9F%E5%A0%82

 

・Wikipedia フィンランド

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89#%E6%96%87%E5%8C%96

 

・A331 ペンダントライト ビーハイブ Beehive / ホワイト×ブラスArtek

https://www.sempre.jp/item/115522/

 

・アアルト・ベース

https://zoomlife.tokyo/mono/151

https://www.freedesign.jp/shopdetail/000000001097/