今さら聞けないヘーリット・トーマス・リートフェルト。世界遺産となるシュレーダー邸の生みの親
名作チェアといえば、何を思い浮かべるでしょうか。
イームズ夫妻が手掛けたイームズシェルチェア、アルネ・ヤコブセンのエッグチェアなどの数々の名作が挙げられるでしょう。
今回取り上げるヘーリット・トーマス・リートフェルトの作品の中にも名作があるのです。
それはレッド&ブルーチェアとジグザグチェア。
レッド&ブルーチェアは置物として飾りたくなるほどのデザイン性の高さで人気を博しています。そしてジグザグチェアは、一度見たら忘れられないほどのシンプルな作りですが、その裏には巧みな技術が散りばめられた作品なのです。
今回はヘーリット・トーマス・リートフェルトの傑作の数々や彼が重んじている作品のポリシーについて紹介していきます。
世界中で愛されたデザイナーヘーリット・トーマス・リートフェルト
20世紀を代表するオランダの建築家兼デザイナーといえば、真っ先にヘーリット・トーマス・リートフェルトが挙げられるくらい有名です。
彼はレッド&ブルーチェアやジグザグチェアなどの家具、シュレーダー邸やゴッホ美術館本館などの建築をデザインしました。
これらの作品を制作するにあたって、彼が影響を受けた運動があります。それはオランダ語で形式を意味する、デ・ステイルという芸術運動です。
デ・ステイルは当時の様々な業界に激震を与え、ディック・ブルーナのミッフィーやイヴ・サン=ローランのモンドリアン・ルックが生み出されるきっかけにもなりました。
ヘーリット・トーマス・リートフェルトはユネスコ文化遺産に登録されたシュレーダー邸を設計してから、オランダだけでなくイタリアやフランス、ベルギーなど様々な国の建築に携わり、世界中で愛される建築家兼デザイナーにまで上り詰めたのです。
幼少期から父の影響で家具づくりに憧れ23歳で工房を設立
ヘーリット・トーマス・リートフェルトはオランダの第四の都市、ユトレヒトで1888年に誕生しました。
彼の父は家具職人で、ヘーリット・トーマス・リートフェルト自身が幼少期から家具づくりに憧れを持っていました。そして彼は父のもとで修業を積みながら、夜間学校に通っていたのです。
その後23歳という若さで自身の家具工房を立ち上げました。そこから彼の名作は産声を上げます。
彼は1917年にレッド&ブルーチェアを完成させましたが、当時は赤と青のハッキリとした色は塗られていませんでした。この椅子が今のようなデザインになったのは、デ・ステイルの活動を通じてなのです。
デ・ステイルとは建築家や画家、デザイナーなどのクリエイターで結成された新造形主義の芸術運動のことで、彼もこの運動に参加してから彼の作品に大きな影響を及ぼしました。
その結果、レッド&ブルーチェアの配色が現在のような赤と青の目立つ色になったのです。さらに、彼は大量生産することを念頭に家具を製作していたため、木材も比較的標準的なもので作りました。
このように彼はその後もデ・ステイルの影響を受けて、あらゆる価値を世に生み出していきました。
父譲りの伝統的デザインとは対極なスタイル
ヘーリット・トーマス・リートフェルトは父から家具作りを学びました。彼の父の作る家具は伝統的な形式のものでしたが、彼が世間から評価を得る家具は全く異なるスタイルでした。
ヘーリット・トーマス・リートフェルの作る家具の様式は、彼が加入した新造形主義のグループ、デ・ステイルによって形成されました。
デ・ステイルは作品の色彩を赤、青、黄の色の三原色と、黒、灰、白に限定しています。そして水平線や垂直線のパターン化された構成を理想としていたのです。
そういったデ・ステイルの流儀に乗っとって作られたレッド&ブルーチェアは、赤と青の目を引く配色かつ芸術的な造形のチェアで世間を驚かせました。
また彼の大作ともいえるシュレーダー邸は赤、青、黄、黒、灰、白の配色で施され、正方形や直線を駆使した立体構造で建築されています。
このシュレーダー邸が新造形主義の運動を体現しているとして、めでたく2000年にユネスコ文化遺産に登録されました。
デ・ステイル後、レッド&ブルーチェアが大注目
ヘーリット・トーマス・リートフェルトはレッド&ブルーチェアを作成したことによって彼の名がヒットしました。
しかし前述の通り、レッド&ブルーチェアを発表した当初から彼が注目されたわけではありません。
デ・ステイルの考えに基づいてこのチェアの配色を改良するなどして人気を集めるようになりました。
レッド&ブルーチェアは存在感のある赤、青、黒、黄の彩色で構成されているのです。そして座面も背もたれも正方形で作られています。また座面や背もたれをつなぐ繋ぎ目などはなく、黒いフレームやひじ掛け以外はすべて正方形で統一されているのです。
こういった特徴のある椅子は当時非常に目新しいもので、その芸術性の高さが注目されました。
レッド&ブルーチェアはそれが部屋にあるだけで一気にアーティスティックな空間を生み出します。この椅子が後のシュレーダー邸という傑作の制作につながったのです。
ヘーリット・トーマス・リートフェルトの代表作2つ
レッド&ブルーチェアにみられるように、独特な世界観を放つのがヘーリット・トーマス・リートフェルトの作品の特徴です。
そんな作品の中から不朽の名作と名高いデザインをいくつかご紹介しましょう。
シュレーダー邸
シュレーダー邸は1924年にオランダのユレイヒトに建てられた住宅です。この住宅はその名の通り、シュレーダー夫人とその三人の子供が生活を営むために設計されました。
白と灰の外壁に、赤や青、黄や黒の正方形や直線で構成された外観がなんとも特徴的です。
この外観はレッド&ブルーチェアの制作にあたっても取り入れたデザインでした。
シュレーダー邸の構造は当時一般的だったレンガ造りを採用していて、屋根と床は木造で出来ています。
一階には台所や書斎の他、スタジオや家事室、メイド室が完備されているのです。二階は個人の部屋とリビングがメインで、可動式の仕切りを移動させることで広々とした一つの部屋として活用することができます。
この住宅が注目を浴びたきっかけは、雑誌『デ・ステイル』をはじめとするヨーロッパ中の建築雑誌で掲載されたからです。
そして2000年にはユネスコ文化遺産に登録され、現在はミュージアムとして一般公開されています。
ジグザグチェア
ジグザグチェアは一枚板をZ型にしたような見た目で、シンプルな作りであるがゆえに「椅子の究極のかたち」ともいわれるほどです。
これ以上インパクトがあり無駄がない椅子はあるのでしょうか。
1934年に発売されてから世界中に衝撃を与えた椅子として注目されています。
一見すると一枚の木を折り曲げただけのように見えますが、四枚の板を組み合わせて作られました。この手法はカッシーナの秀抜な技術によって生まれたのです。そのため見た目以上に丈夫で、座り心地も良く安定感があります。
ひじ掛けや金属の部品などのないシンプルな椅子ですが、それは大量生産を念頭に家具作りをしていたヘーリット・トーマス・リートフェルだからこそ出来たデザインだといえるでしょう。
現在では色のバリエーションも豊富で、赤、青、黄、灰、黒、白の他、木目を強調した二色の色が展開されています。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)では永久展示品に認定されていて、世界中で愛されているのです。
オランダ観光にて必ず目にする彼の作品「ゴッホ美術館本館」
日本でも有名な世界的な画家のひとりにフィンセント・ファン・ゴッホが挙げられます。
彼は耳切り事件などで知られているように壮絶な人生を歩んでおり、彼の『ひまわり』や『種まく人』は今でも世界中で愛されている名作です。
そんなゴッホを中心に数々の名作が展示されているゴッホ美術館の本館をヘーリット・トーマス・リートフェルが設計しました。
ゴッホ美術館はオランダのアムステルダムに1973年に開館されたのです。
このゴッホ美術館の建築様式も直線を基調とした構造で、デ・ステイルの形式を一貫して貫いた作りで出来ています。
ゴッホ美術館は、オランダに旅した人は必ずといっても良いほど訪れる観光地で、ゴッホの絵画が実に200点以上も展示されているのです。
そのためゴッホ美術館を訪れたことのある方は、必然的にヘーリット・トーマス・リートフェルの建築作品にも触れていたといえます。
今もなお現存する、ヘーリット・トーマス・リートフェルの大作といえるでしょう。
まとめ
ヘーリット・トーマス・リートフェル自身と、それから彼の作品の魅力について深堀していきました。
彼はデ・ステイルの様式を尊重したデザイン作りをしていて、特に家具づくりにおいては大量生産することも視野に入れていたのです。
そのため彼が手掛けたチェアは非常に構造的にはシンプルな作りのものばかりでした。
しかしそういったシンプルな材料に色の三原色に黒や白、灰などの光と影になる配色を使ったのです。その結果、一気に陰影のあるはっきりとした色合いの作品が完成しました。
彼は建築でもデ・ステイルの主義を重んじた設計をしたのです。
彼がデザインしたシュレーダー邸は、デ・ステイルの理念を代表するといっても過言ではないほど幾何学的で鮮やかな邸宅に仕上がりました。
ユネスコ文化遺産にも登録されるほどの実力のあるヘーリット・トーマス・リートフェルの作品は、いまでも世界中に残っています。
そういった作品を見て楽しみ、座って楽しむなどすれば彼の才能をまた実感できることでしょう。
【参考URL】
・名作家具 ZIGZAG ジグザグ
https://high-brands.com/interior-product.php?id=293
・280 ZIG-ZAGジグザグ チェア
https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/g4900005235529/
・ゴッホ美術館(本館)(1973年)建築家:ヘリット・トーマス・リートフェルト
http://bvh.blog135.fc2.com/?no=487
・ヘリット・トーマス・リートフェルト
https://blog.goo.ne.jp/meisakudo/e/3226640f1a8cfd956e45802169ab0f1c
・ヘリット・リートフェルト Wikipedia
・シュレーダー邸 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E9%82%B8
・ゴッホ美術館 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%9B%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8
・河内タカの素顔の芸術家たち。ヘリット・トーマス・リートフェルト
https://andpremium.jp/column/kawachi-taka/gerrit-thomas-rietveld/
・建築家 ヘリット・リートフェルトを知ろう! シュレーダー邸など
https://sumukoto.com/architect-gerrit-rietveld/
・Gerrit Thomas Rietveld ヘーリット・トーマス・リートフェルト
https://high-brands.com/interior-brand.php?id=238
・いろいろなデザイナーVol.9 ~ヘリット・トーマス・リートフェルト~
・デ・ステイル Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%AB
・ユトレヒト Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%92%E3%83%88
・デ・ステイル
https://artscape.jp/artword/index.php/%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%AB
・ゴッホとは?「ひまわり」など代表的な絵画や、耳切り事件について分かりやすく解説!
https://media.thisisgallery.com/20183309
・名作椅子ってなにがすごいの?1. リートフェルトのレッドアンドブルーチェア
https://fareast-gadget.com/blog/chair-redandblue/
・トーマス・リートフェルト/Red&Blueレッドアンドブルー