今さら聞けないマックス・ビル。他分野に足跡を残す、バウハウス最後の巨匠。
「スプーンから都市計画まで」という言葉をご存じでしょうか?この言葉で有名な人物はマックス・ビルです。
彼はその言葉通り時計や彫刻、ラグやスツールなどありとあらゆるものをデザインしました。芸術分野の才能に長けていましたが、それだけではなく教育者としても、時には議員としても実力を発揮したのです。
最初は建築家を目指していたわけではありませんが、偶然の出会いや人の導きにより、彫刻や教育、家具や雑貨の分野に大きな爪痕を残しました。
いったい彼はどんな人生を歩み、どんな作品を生み出したのでしょうか。
今回はマックス・ビルに焦点を当ててご紹介していきましょう。
バウハウスの申し子 マックス・ビル
マックス・ビルについて、どれほどご存知でしょうか。
人によっては彼を「彫刻家」と呼んだり、「美術学校の創設者で学長」や「プロダクトデザイナー」と表現するでしょう。そのどれもが正解で、彼は建築家としても、教育者や彫刻家、さらには文筆家や工業デザイナーとしても活躍しました。
マックス・ビルはスイス生まれのクリエイター。多方面で成果をあげたのです。そのため「バウハウスの最後の巨匠」とも言われています。
バウハウスでの学びはその後の彼の人生に大きな影響を及ぼし、本校の理念である「大量生産可能で、シンプルで、機能的」な作品作りの土台が形成されました。
そして彼がバウハウスを卒業した後に閉校しましたが、第二のバウハウスとも呼べるウルム造形大学を創設したのです。
そんな彼はまさにバウハウスの申し子といえるでしょう。
ル・コルビュジエの影響で建築分野へ
マックス・ビルは、1908年スイスのヴィンタートゥールで産声をあげました。
その後すくすくと成長し、1924年の16歳の時にチューリッヒ市立美術工芸学校に入学、銀細工を学びました。
しかし美術工芸学校の在学中にパリに旅行した際、ル・コルビジェの作品を目の当たりにして建築分野にも興味を持ち始めたのです。
ル・コルビジェの建築に心を打たれたマックス・ビルは、ル・コルビジェの講演会にも足を運びました。そこで自身も建築家の道を進もうと決心したのです。
そして彼はチューリッヒの美術工芸学校を卒業してすぐに、ドイツのバウハウスで建築学を修得することになります。
バウハウスでは彼と同じくスイス出身のパウル・クレーなど、名だたる講師から教わりました。特にル・コルビジェやミース・ファン・デル・ローエのデザインスタイルには影響を受け、彼が学んでいた時期はバウハウスの全盛期で、「バウハウス最後の巨匠」とも後に呼ばれるようになったのです。
彼はバウハウス卒業した後スイスに帰国。建築分野にとどまらず、画家や彫刻家、デザイナーとして多岐に渡る活躍ぶりをみせたのです。
彼はビニア・スポエリーと結婚してからは、タイプライターのデザインをきっかけに、プロダクトデザイナーや家具のデザイナーとしても取り組み始めるようになりました。
その後彼は、社会情勢により閉校になってしまったバウハウスを復活させようと、インゲ・ショルの声掛けでウルム造形大学の設立に貢献したのです。
色んな人の努力が成果を結び、無事にウルム造形大学が誕生し、マックス・ビルはこの大学の初代学長に就任しました。ウルム造形大学はバウハウスの教育理念を継承した教育がなされたのです。
開校初期は企業との共同プロジェクトや幅広いデザイン活動を積極的に行いました。
わずか1年で学長を退任した彼は、大型の絵画の制作に尽力し、スイス連邦議会議員を勤め、ハンブルクの造形高等学校で環境デザイン学科の教授としても活躍を果たしました。
様々な業界にインパクトを与えたマックス・ビルは、1994年にベルリンで生涯を閉じます。
幾何学的アートが多数。代表的なパヴィリオン彫刻
マックス・ビルは1935年から約3年間コンクリート・アート作品を手掛けました。
コンクリート・アート作品は彼の代表作でもあり、パリの出版社から冊子で発表されたのです。
コンクリート・アートとは1930年にファン・ドゥースブルフが提唱した言葉です。彼は芸術作品というものは目に見える世界を再現したものではなく、あくまで人間が創った創造物で、一本の線や一つの色、一枚の平面ほどリアルなものはないと主張しています。
「コンクリート」は日本語で「具体的」という意味ですが、マックス・ビルは「具体的」とは「今までに触れることもできず、目にも見えなかったものを表現すること。抽象的なアイデア、関係、コンセプトを目に見えるようにすることだ」と述べました。
このコンクリート・アートも、箱根にある彫刻の森美術館に展示されているパヴィリオン彫刻も彼が手掛けた作品の多くは幾何学的なものばかりです。
彼は数学的な図形の中に美しさを見出しているのでしょう。
バウハウスの理念を引き継いだ究極椅子「ウルムスツール」
マックス・ビルはウルム造形大学の学長を務めていた際、学生たちのために椅子を作ろうと考えていました。
講義室や作業室、カフェテリアで使うスツールだけでなくサイドテーブルとして、さらには手軽に持ち運んだり、教材を載せるトレイとしても活用したいという思いからウルムスツールは完成されたのです。
このウルムスツールもバウハウスの信念を引き継いだスツールといえます。大量生産を考えたシンプルな構造かつ一般的な素材。作りに無駄はなく、合理的な機能性も兼ね備えています。
単に座るだけでなく、踏み台としても使用でき、スツール同士を重ねると簡易的な本棚に早変わりします。
またコーナーの組み方も非常に考えられたもので、釘は一切使用していません。
2009年までVitraで販売されていましたが廃盤となり、2011年からはヴォーンベダルフから復刻版が発売されました。
ウルムスツールはカラーバリエーション豊富なので、複数購入して部屋に置けばポップな色使いに心が癒されるでしょう。
素材は木なので、北欧家具や日本家具とも相性抜群です。
マックス・ビルの代表作「ユンハンスの時計」
マックス・ビルは先述したように、画家や彫刻家、教育者やプロダクトデザイナーなど、様々な肩書きを持っています。そんな多才な彼が手掛けた作品はどれも人気です。
マックス・ビルはウルム造形大学の学長時代、様々な企業とコラボレーションした作品作りに尽力していました。そんななか生まれたのがユンハンスの掛け時計です。そして彼は掛け時計をもとに腕時計も制作しました。
丸い形がチャーミングで文字盤は読みやすく、洗練されたデザインです。シンプルながらも時計の針の形状はより美しく見えるように計算されつくしていて、今もなお世界中の人々に愛用されています。
ウルム造形大学はバウハウスの教育方針を受け継いでいますが、その中でも代表的なものは「大量生産できる素材や設計」「シンプルだけど美しい造形美」「高機能で合理的」という3つの理念です。
マックス・ビル バイ ユンハンスはまさに、この3つの理念すべてをクリアした見事な作品といえるでしょう。
現在販売されている時計は、手巻きや自動巻き、クォーツモデルなどが展開されています。
カラーバリエーションも時代に合わせた様々な色が選べます。
とりわけ目を引くのは最新作のマックス・ビル メガでしょう。この時計はその上品なデザインは変わらず、世界初の電波式腕時計として発表されたのです。
なんといっても時刻の正確性は群を抜いていて、基地局からの標準電波情報と比較して時間を自動的に補正します。さらには時計の秒針が0.5秒ずつ動くSHM技術も搭載されているのです。
驚くほどにまで高技術で洗練されたマックス・ビル バイ ユンハンスの時計は、渾身の一作といえるでしょう。
高松宮殿下記念世界文化賞受賞が日本で広く知られるきっかけ
マックス・ビルは世界中で活躍したデザイナーで、日本でもその実力を認められる出来事がありました。それは1993年に彼が彫刻分野で高松宮殿下記念世界文化賞を受賞したことです。
高松宮殿下記念世界文化賞は、1988年に日本美術協会によって創設されました。世界的にも輝かしい業績を残し、音楽、映像、演劇、絵画、彫刻、建築の分野で活躍したクリエイターに授与される賞です。
日本人だと、黒澤明は映像部門で、草間彌生は絵画部門でそれぞれ受賞しました。
高松宮殿下記念世界文化賞の20周年を記念した展示会『Art of our time』展が東京の上野の森美術館で開催された時、マックス・ビルの代表作品も展示されました。
また神奈川県にある彫刻の森美術館では、1969年に制作された彼の彫刻作品であるパヴィリオン彫刻が展示してあります。この作品は直線の柱で正四角形を作った彫刻で、非常に数学的な美しさが秘められています。パヴィリオン彫刻の「パヴィリオン」とは「あずま屋」という意味で、中に入って休憩できるようなコンセプトです。
このように、マックス・ビルは日本でも愛されるデザイナーになりました。
まとめ
今回はマックス・ビルの歩んできたストーリーや彼の魅力的なデザインの数々について深堀してきました。
マックス・ビルは多岐に渡るジャンルで作品作りをし、そのどれもがバウハウスの思想をとても重んじていると分かりました。
彫刻、スツール、時計作りにおいて、かつてこれほどまでにバウハウスの理念を貫き通したデザイナーはいるでしょうか。
その功績は偉大なものでした。彼の活躍ぶりは日本で賞を受賞するほど認められていて、海を越えて世界中で愛されているクリエイターなのです。
そんな彼の作品は、世界のあらゆる場所で触れられます。作品を通じてマックス・ビルの情熱を感じてみてはいかがでしょうか。
【参考URL】
・高松宮殿下記念世界文化賞
https://www.praemiumimperiale.org/ja/
・受賞者一覧
https://www.praemiumimperiale.org/ja/laureate/laureates
・「Art of our time」展 上野の森美術館
http://memeyogini.blog51.fc2.com/blog-entry-420.html
・max bill.a journey
https://www.endogem.co.jp/maxbill.htm
・マックス・ビル Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%AB
・バウハウスの重要人物「マックス・ビル」とは
https://ogitaka.com/2017/06/05/max-bill-story/
・普遍的な美と最新技術の融合したマックス・ビル バイ ユンハンス
https://germanwatch.jp/2019/01/30/jhsp05/
・多才な造形家 マックス・ビル
・いろいろなデザイナーvol.30 ~マックス・ビル~
https://www.hapsent.com/blog/furniture/max-bill-vol30/
・バウハウス Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A6%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9
・マックス・ビル
https://www.hakone-oam.or.jp/permanent/?id=16
・1993年 第5回 彫刻部門 マックス・ビル
https://www.praemiumimperiale.org/ja/laureate/laureates/bill
・バウハウスの概念を象徴する名作
https://metrocs.jp/special/maxbill/ulmstool.html
・ウルムスツールの人気の理由を徹底解説!
https://kagu.tokyo/entry/ulmstool190119
・腕に優雅な佇まい。この顔でスマホのようにいつでも正確。
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