今さら聞けないマリオ・ベリーニ。日本の身近なアイテムも多数手がけた建築家
使い手の快適さを追求した家具を制作したデザイナーがいます。それはイタリアデザイナー界の巨匠マリオ・ベリーニです。
肉付きの良いクッションに、質感の良い革で包み込んだキャブチェアをご存じではありませんか?
マリオ・ベリーニは、キャブチェアのように贅沢なほどのクッションを使った椅子をたくさん世に生み出しました。
大胆で直感的な作品は、爆発的なヒットを巻き起こしています。彼の才能が開花したのは、なにも家具デザインだけではありません。
建築物や電化製品のデザイン、雑誌の編集長としてなど幅広い分野に及びます。
そんなマリオ・ベリーニはどうやって世に名を広めるほどのデザイナーになったのでしょうか。
彼の人生や彼が作り出した作品の魅力について深堀りしていきます。
ミラノ出身の建築家マリオ・ベリーニ。身近な電化製品など多種多様
マリオ・ベリーニは、イタリア・ミラノ出身の建築家兼デザイナーです。彼は電化製品のデザインや家具デザイン、インテリアデザインを手掛けました。
彼は最初、プロダクトデザイナーとしての活動が中心でした。しかし、途中から建築家としても活躍しました。
建築家としては遅咲きでしたが、業界の中でも限られた人しか任せられない都市計画のプロジェクトにも携わり、建築展覧会などの展示デザインも担ったのです。
そんな彼の腕前は、ルーブル美術館イスラム美術ギャラリーの設計に関わるほどです。さらには、日本のオフィスビルや会員制ホテルもデザインしました。
そんな活躍が認められ、彼は1986年にはジオ・ポンディが初代編集長を務めた建築デザイン雑誌の編集長に任命されたのです。
彼が手掛けた家具はモダンで、ある時はシンプルな家具を発表したかと思いきや、ある時は大胆な家具を作ったりといつも私たちを驚かせます。
プロダクトデザインで礎を築き、日本の建築デザインで名を馳せる
1935年のイタリア・ミラノでマリオ・ベリーニは産声をあげました。
彼はすくすくと成長して学力をつけ、イタリアの名門大学として有名なミラノ工科大学建築科に入学しました。
彼は大学卒業後、わずか26歳という若さで百貨店のデザイン部長を2年間務めました。その百貨店はイタリアで誰もが知るラ・リナシェンテです。
彼は百貨店を退職したあと、オリベッティ社のデザイン顧問を担いました。オリベッティ社はタイプライターが有名な会社です。
マリオ・ベリーニは、タイプライターや計算機などをデザインし、その努力が功を奏してオリベッティ社はもっとグローバルな企業に発展していきました。
1975年に彼はオリベッティ社を退職し、独立して作品をデザインするようになります。
上質なレザーでできたシンプルな椅子のキャブチェアをカッシーナ社から発表したのをはじめとして、オフィスチェアやテーブル、照明などの家具、自動車の内装やテレビ、ステレオなどの家電製品に至るまで幅広く手掛けました。
彼の噂は日本にも広まりました。ヤマハからマリオ・ベリーニのもとにオファーがあり、彼は電子オルガンや電気ポットをデザインしました。さらには1986年から5年間、彼は建築・デザイン雑誌のドムスの編集長を務めたのです
ここまでの活動からも分かるように、彼は建築科を卒業していながらも、ほとんど建築デザインには手を付けられていませんでした。しかし彼の転機は1922年に訪れます。
その年にはなんと、東京にある東京デザインセンターと横浜にあるベリーニの丘の設計を手掛けました。彼が建築家として芽を出しはじめたのは、イタリアではなく日本だったのです。
彼は今やヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなど世界中の国々で建築を手掛けています。
これまでマリオ・ベリーニは私たちが日常に欠かせないもののありとあらゆるものまでデザインしてきました。
固定概念を捨て頭脳と心で作品を生む
マリオ・ベリーニの手掛けた作品は、一般大衆受けするようなシンプルなデザインもありつつ、ダイナミックで芸術的なデザインもあります。
それらに共通するのは、どこか感覚的なものばかりなのです。
彼は課題に取り組む際、常に固定概念を脱ぎ捨てて頭脳と心を使ってデザインすることを重んじています。
それが如実に表れている作品が、ヤマハとマリオ・ベリーニのコラボレーション作品である象印マホービンという電気ポットです。象の巨大な体と大きく揺れる鼻が連想されるような電気ポットで、発売当時は人々に大きな衝撃を与えました。
その結果、象印マホービンはグッドデザイン賞を受賞します。
また1972年に誕生したレ・バンボレもまさに従来の家具の殻を破った作品と言えるでしょう。イタリア語で「お人形」を意味するレ・バンボレは、床に置いたクッションのようなソファです。まるでお団子のようにまるい形をくりぬいたようなフォルム。
そのソファに腰掛けるだけであまりの居心地の良さに言葉を失い、いつまでも座り続けたくなるほどです。
ちょうどクッションとソファの良いとこ取りをしたような家具で、その斬新なデザインに世間は圧倒されました。
独立後の作品キャブチェアはイタリアモダンの代名詞に
マリオ・ベリーニはオリベッティ社を大きな企業に成長させてからフリーで家具を作るようになりました。彼が独立して最初にデザインしたものがキャブチェアです。
この椅子は、凛としていてモダンですが、人間の身体の延長をイメージして設計してあります。
豊満で美しい肉付きを連想させるほどの厚い革でデザインされ、その座り心地は、母親に抱かれた幼少期を思い起こすほどやわらかい。
内部にはスケルトンとメタルのフレームが入っており、椅子の骨格の役割を果たしています。その上から贅沢にも分厚い革が覆いかぶさっている構造です。
この椅子が発表された1977年以降、キャブチェアはイタリアモダンデザインの代名詞になりました。
キャブチェアはニューヨーク近代美術館の永久所蔵品にも認定されているのです。
ちなみに1977年に発表されたCABシリーズには、他にもアームチェアやカウンターチェアなどのバリエーションが展開されています。2015年にはCABシリーズにラウンジアームチェアとベッドが仲間入りしました。
マリオ・ベリーニの代表作2つ。使う人に寄り添ったアイテム
キャブチェアで一気に人気に火が付いたマリオ・ベリーニ。そんな彼の手掛けた作品は、世界中の人々を虜にしてしまうようなものばかりです。そんな彼の名作をご紹介いたしましょう。
ベリーニチェア
1998年、子供用の家具メーカーとして名をはせるヘラーとマリオ・ベリーニがコラボレーションした椅子が発表されました。
ベリーニチェアと名付けられたこの椅子は、椅子と背もたれが一体成型されたFRP素材を使用し超軽量に成功。子供でも持ち運べるような軽さで、5脚まで積み重ねて収納できます。
陶器のようにつるんとした質感で肌触りは抜群です。そのうえ背中の形にフィットするまるみのある背もたれなので、座った時に極上の座り心地の良さを体感できるでしょう。
家の中だけでなくベランダや庭でも使用でき、使う場所を選びません。
こっくりとしていて愛着の湧くデザインのベリーニチェアは、第19回コンパッソ・ドーロ賞を受賞しました。
デューン
マリオ・ベリーニは家具だけではなくインテリア用品も手掛けました。その代表的なもののひとつにデューンがあげられます。
デューンは大手家具ブランドのカルテルから発売されました。カルテルは最先端の技術を使用したエレガントな風合いが特徴の家具メーカーです。
デューンはまるで彫刻のようにフォルムが美しく清涼感のある色合いが特徴のトレイです。
このトレイは半透明のアクリル樹脂でできているため、トレイの上にグラスを置けば光と色彩の加減で立体的な美しさを演出できます。
置くものによってさまざまなオブジェクトを生み出すため、その奇跡的で芸術的な雰囲気も楽しめることでしょう。
カマレオンダ・ソファ。自由度が高く時代にフィット
1970年にカマレオンダ・ソファは発売されました。1960年代から1970年代は、ちょうど核家族化が進み始めた時代です。それにより暮らしのあり方も大きく変化しました。
カマレオンダ・ソファはソファの組み合わせ次第で色んな形にレイアウトできるため、発売当初から爆発的な人気をほこりました。発売まもなくして完売してしまってからも、中古ショップでは高値で取引されるほどカマレオンダブームは続いたのです。
このソファはモダン家具の代表格でもあります。
カマレオンダ・ソファの名前の由来は「カメレオン」と「オンダ(波)」からきています。そこには、人は時代によってカメレオンのように変化するものだというデザイナーの主張も隠されているのです。
このソファは組み換え自由なシステム家具なので、あらゆるシーンに適した使い方ができます。
1人でのんびり寛ぎたいときでも、友人とゆったり会話を楽しみたいときもどんな日常でも輝かせます。
まるで雲の上に座っているかのようなやわらかさと弾力を兼ね備えた座り心地で、今も愛され続けています。
まとめ
世界中で活躍した家具デザイナー・建築家のマリオ・ベリーニの魅力についてみていきました。
ときにダイナミックな顔を見せたり、ときにスマートな顔を見せたりと様々な顔を持つ彼の作品はどれも個性的なものばかりです。
これから彼が発表する作品はどんなものでしょうか。
「時代の変化と異なる文化の数だけ、表現されるデザインがある」という価値観を持つ彼だからこそ、今後も私たちを楽しませてくれる作品を魅せてくれることでしょう。
【参考URL】
・B&B Italia マリオ・ベリーニのデザイン視点 “思考と感覚”の探求
https://bijutsutecho.com/exhibitions/8766
・巨匠マリオ・ベリーニがデザインする <Le Bambole (レ・バンボレ)>ソファ 50周年記念イベント開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000056.000016901.html
・SALE Kartell/カルテル Dune / デューン W460 Mario Bellini/マリオ・ベリーニ デザイン テーブルウェア イタリア製(italy製)正規品保証 トレイ アウトレット品【新品】
https://item.rakuten.co.jp/underground/10000868/
・Mario Bellini / マリオ・ベリーニ
https://flymee.jp/designer/mario-bellini/
・Camaleonda
https://bebitalia.co.jp/product/camaleonda-sofa/
・B&B イタリアから復刻した名作ソファ「カマレオンダ」で叶える自由な暮らし【前編】
https://precious.jp/articles/-/24454
・ヘラー HELLER / USA ベリーニチェア 2脚セット
https://izuya.shop/products/36112
・カッシーナ Cassina キャブ アームチェア 413 CAB 本革 ブラック マリオ・ベリーニ ~革の美しい表情~
・マリオ・ベリーニ Wikipedia
・いろいろなデザイナーVol41 ~マリオ・ベリーニ~
https://www.hapsent.com/blog/basic-knowledge-of-interior-about-designer/mario-berrini/
・Mario Bellini
https://www.cassina-ixc.jp/shop/r/r221010/
・マリオ・ベリーニとアキーレ・カスティリオーニ!イタリアンモダンデザイナーを画像で解説
https://interior-no-nantalca.com/mario-bellini-and-achille-castiglioni/
・カッシーナ (企業) Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%8A_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)
・B&B Italia マリオ・ベリーニのデザイン視点“思考と感覚”の探求
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000016901.html
・heller社のインテリア
https://www.woodwarlock.jp/fs/wood/c/heller
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