今さら聞けない倉俣史朗。芸術的感性で形にしたインテリアデザイン
日本が誇る屈指のデザイナー、倉俣史郎。彼は自身の信念を追求した個性豊かな作品を生み出しました。
そのためカルチャーショックならぬ「クラマタショック」という言葉が誕生したほどです。
そんな倉俣史郎のオリジナリティ溢れる作品とは一体どんなものなのでしょうか。
芸術的な美的センスで生み出されたインダストリアルデザイン
倉俣史郎は、東京出身のインテリアデザイナーです。
彼の手掛けた椅子やテーブルなどはインダストリアルデザインとはかけ離れていて、芸術的で彼の美的センスによって生み出されました。
1965年には倉俣史朗デザイン研究所を設立。
彼はインテリアデザイナーの仕事の傍ら、什器や照明などのプロダクトデザイン、飲食店や展覧会などの空間演出デザイン、友人の仕事場や住宅などの現代建築物の設計も手掛けていました。
2023年11月18日(土)〜2024年1月28日(日)まで「倉俣史朗のデザイン ― 記憶のなかの小宇宙」が東京・世田谷美術館と富山・富山県美術館で開催されます。
東京では20数年ぶりの個展で、海外からの観光客が増えてきたことも受けて、世界中からもたくさんのファンが駆けつけてくることが予想されます。
倉俣史朗の生涯。思い切った行動が夢を叶え、人生をも変える
1934年、東京・本郷にて倉俣史朗は誕生しました。
しかしながら彼が生まれてからすぐに第二次世界大戦が勃発し、彼の住む家は空襲で焼けてしまったのです。
そのため戦後は駒込に移り住むことにしました。
彼は不運にも見舞われながらも、1950年には東京都立工芸高等学校に入学し、木材科で学びました。
その後は専門学校の桑沢デザイン研究所リビングデザイン科に進学し、着実にデザインについての知識を深めます。
専門学校時代、のちの彼の人生に影響を与えるものと出会いました。それは建築インテリア雑誌・ドムスです。
この雑誌に載るようなデザイナーになることが彼の目標になりました。
卒業後、彼は婦人服を取り扱う三愛の宣伝課に就職しました。
そこでは、店舗設計やウィンドウディスプレイなどの仕事に携わります。
その後のキャリアとしては、松屋インテリアデザイン室に嘱託社員として約2年勤めた後、1965年に晴れて自身のデザイン事務所であるクラマタデザイン事務所を東京に設立するに至ります。
彼はアートディレクターの役割も果たし、事務所は多くのデザイナーを輩出しました。
1967年に倉俣史郎は、グラフィックデザイナーの横尾忠則とコラボレーションしたインテリアデザインを生み出したのです。
そのデザインは、奇抜かつ独創的な世界観で一気に注目を浴びました。
デザイナーとして成長した倉俣史朗は1969年、思い切った行動に出ます。
彼はあこがれの雑誌ドムスの編集長ジオ・ポンティに直接会いに行ったのです。
ジオ・ポンティに自身の作品を見せて、ドムスに掲載できないかと頼みました。
ジオ・ポンティは彼の作品に感心し、快く彼の願いを引き受けました。
そして1970年には念願かなって雑誌ドムスに倉俣史朗の作品が掲載され、その後もたびたび彼の作品は雑誌に取り上げられるようになったのです。
倉俣史朗はこの頃までには確実にジオ・ポンティに認められる実力を蓄え、思い切った行動と、強い情熱で自らの夢を実現させていきました。
専門学校時代に思い描いた目標を叶えた倉俣史朗ですが、まだまだ勢いがとまることはありません。
彼は日本万博博覧会に参加し、Furniture in Irregular Formsを発表して世界に広く認知されるようになったのです。
そんな彼の活躍ぶりが評価されて1972年には毎日産業デザイン賞を受賞。
1981年には彼はエットレ・ソットサスの誘いによりイタリアのデザインチームであるメンフィスの創設メンバーになったのです。
同年には日本文化デザイン賞受賞を受賞しました。
そして1990年には彼はフランス文化省芸術文化勲章を受章しましたが、翌年1991年に急性心不全のため帰らぬ人となってしまったのです。
しかし彼が遺した作品は今も世界中で愛されており、彼の功績は大きいものだったといえます。
独特の感性から生み出された倉俣作品
倉俣史郎の作品は彼独自の感性から生み出されたものがほとんどです。
彼は作品をイマジネーションする際、次のようなことを意識していると述べています。
「私の発想法はふたつある。一つは、ゼロからの発想であり、そのものに纏わりついている諸々のものを取り除き、ゼロから見直すことである。もう一つは逆に何故?という単純な疑問からとらえること」
彼の作品はアクリル、グラス、アルミニウム、スチールメッシュを使用したものが中心です。
特に1967年以降はアクリルを使った透明で浮遊感のある作品を多く制作しました。
彼が作品づくりで重きを置いているテーマは夢心地です。
生活空間にある重力から解放されたかのような浮遊感を作品の中に取り入れることで、まるで夢の中のような世界観を作り上げました。
日本万博で発表した衝撃的な家具で、瞬く間に大人気に
1970年に倉俣史郎は日本万博博覧会に参加し、Furniture in Irregular Forms(変形の家具)シリーズを発表しました。
その多くは「変型の家具サイド2」や「廻転キャビネット」など収納家具です。
Furniture in Irregular Formsがあまりにも衝撃的な家具だったため、倉俣史郎は瞬く間に人気を集めていきました。
従来の家具であれば、収納や引き出しは長方形なり正方形なり直線で構成されます。
しかしこのFurniture in Irregular Formsは、まるで魔法にかけられ魂を吹き込まれたかのようにグニャグニャと曲がっているのです。
不思議な家具ですが、作品づくりにおいて夢心地をテーマにしている倉俣史郎にとって、その作品は彼のコンセプトにぴったり合致します。
和室に合う日本風の家具や北欧家具などいくつかの流派がありますが、倉俣史郎は良い意味でどれにも当てはまりません。
それだけ彼は自分の家具制作の信念に沿った家具づくりをしていたのです。
彼が芯をもって家具づくりをしていることも、今なお倉俣史郎作品が愛され続けている理由のひとつなのでしょう。
倉俣史朗の代表作、まるでオバQを連想させる照明など
ここまでで倉俣史朗は情熱溢れるデザイナーだと分かりました。それではここからは、彼が手掛けた作品について代表作品を具体的に掘り下げていきましょう。
K-SERIES
倉俣史郎は照明デザインも手掛けています。
K-SERIESは、シーツを被せてオバケの真似をしている子供の頭のようなチャーミングで愛らしいフォルムのフロアランプです。
その可愛らしいオバケみたいな見た目はまるで、国民的アニメであるオバケのQ太郎に登場するオバQを連想させます。
そのためK-SERIESはオバQとも呼ばれています。
この斬新な発想からも、ポストモダンデザインを広めようとした倉俣史郎ならではの作品だといえるでしょう。
このフロアランプは複雑な工程を踏みますが、多くの職人たちの協力があって完成しました。それは硝子職人・三保谷の協力によるものです。
まず正方形のアクリル板を照明の支柱にかぶせます。
そして4人の職人が四方向から囲んでふんわりとした布状になるようアクリル板を整えるのです。
最後に空気を吹き付けて冷やして固定させます。
アクリル板を布状にさせる工程は、倉俣史朗の息子である倉俣一郎が毎回仕上がりを確認するほどのこだわりがあるのです。
現在は照明メーカーのヤマギワから発売されています。
How High the Moon
How High the Moonは伝統的な椅子のフォルムをしていますが、エキスパンドメタル(金網材)を使用した型破りな椅子です。
エキスパンドメタルはもともと建築現場で使用されることが多かったのですが、それを椅子に使用したということで世間を注目させました。
この椅子は工業製品のような丈夫さもあわせ持ちながら、透明感と繊細さを持ち合わせています。
倉俣史郎が作品づくりで大事にしている儚さや軽やかさはこの椅子でもしっかり表現されているのです。
ギャップが面白いこの椅子は今や世界中の美術館にコレクションされていることもあり、倉俣史郎の代表作品といえます。
製作方法も複雑で、金属の先端同士を溶接して椅子の形に仕上げるには職人の高い技術が欠かせません。
名前も独特ですが、デューク・エリントンの『ハウ・ハイ・ザ・ムーン』にちなんで名づけられたのです。
2009年以降は製造が中止になりましたが、ギャラリー田村ジョーにより復刻されました。
クラマタショック。独創的かつ芸術的な作品の数々
「クラマタショック」という言葉を聞いた方もいらっしゃることでしょう。
この言葉は、倉俣史郎の生み出す作品があまりにもオリジナリティがあるがゆえに誕生した言葉です。
そんな言葉が生み出されるほど倉俣史郎の作品は個性的と世間から評価されています。
これまでご紹介したFurniture in Irregular Forms、K-SERIES、How High the Moonも独創的で芸術性の高い家具でした。
しかし、他にも彼が人々の心を鷲掴みにした家具があります。元日本代表のサッカー選手・中田英寿氏も倉俣史郎の大ファンで、この家具を自宅に置いているといわれています。
それが1988年に発表されたミス・ブランチという椅子です。
ミス・ブランチは液体アクリル樹脂の中にバラの造花を流し込んで作られています。
この技法を使って作られた椅子はミス・ブランチが初めてです。
この椅子はアメリカの劇作家、テネシー・ウイリアムズの戯曲『欲望という名の電車』に登場する主人公、ミス・ブランチ・デュボワが着ていたバラ柄の衣装からインスピレーションを受けてデザインされました。
椅子の名前もこの戯曲の主人公の女性、ミス・ブランチ・デュボワが由来。
実に情熱的でゴージャスな椅子ですが、すべて手作りで作られています。そのため56脚しか生産されず、200万円という価格で発売されました。
海外オークションサイトでは高い時で5,000万円を超えていたとも言われています。
現在ではニューヨーク近代美術館やサンフランシスコ近代美術館、ヴィトラ・デザインミュージアム、パリ装飾美術館など世界各国の名だたる美術館で永久所蔵品とされているほどです。
また株式会社ワークスタジオ代表の原和広も倉俣史郎へのあこがれからインテリアデザイン業界に入ったそうです。
彼は廃棄衣料品をリサイクル材料として使い、ファイバーボード(繊維圧縮成形板)として生まれ変わらせるPANECOを開発しました。
ファイバーボードは商業施設やオフィス、工場などのさまざまな空間の内装や什器、家具に利用できます。
まさに持続可能性を追求したシステムです。
倉俣史郎亡き今もエコデザインを生み出した原和広のように、彼に影響を受けている人はたくさんいるのです。
まとめ
今回は倉俣史郎が歩んできた人生や彼の作品についてみていきました。
倉俣史郎は帰らぬ人になってしまいましたが、彼がインテリア業界の歴史に大きく爪痕を残したのは間違いありません。
倉俣史郎にあこがれを抱いてインテリア業界に足を踏み入れる人は後を絶たず、彼の手掛けた家具は今でも世界中で愛され続けています。
もしかしたら近い未来に「クラマタチルドレン」という言葉が誕生するかもしれません。
【参考URL】
・日本のデザインアーカイブ実態調査
https://npo-plat.org/kuramata-shiro.html
・Shiro Kuramata
https://www.03interior.com/designer_full_designerid00015.html
・名作家具 Furniture with Irregular Form
https://high-brands.com/interior-product.php?id=210
・名作家具 How High The Moon ハウ・ハイ・ザ・ムーン
https://high-brands.com/interior-product.php?id=211
・How High the Moon / ハウ ハイ ザ ムーン
https://www.sempre.jp/item/963600/
・K-series
https://www.gnr8.jp/products/k-series
・倉俣史朗のフォルムと素材におけるデザインのコンティニュアム
・倉俣史朗 Wikipedia
・倉俣史朗とは?世界的デザイナーの経歴と椅子や照明の代表作品を画像で解説
https://interior-no-nantalca.com/representative-work-of-shiro-kuramatas-chair-and-lighting/
・デザイナー 倉俣史朗を知ろう! ハウ・ハイ・ザ・ムーンなど
https://sumukoto.com/designer-kuramata-shiro/
・倉俣史郎>プロフィール
https://e-daylight.jp/interior/designers/shiro-kuramata/profile/index.html
・倉俣史朗
http://www.tokinowasuremono.com/artist-b87-kuramata/index.html
・三愛 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%84%9B#
・【倉俣史朗のデザイン】変型の家具 1970
https://allabout.co.jp/gm/gc/442298/
・倉俣史朗のデザイン ― 記憶のなかの小宇宙
https://www.museum.or.jp/event/110735
・廃棄衣料品を原料とした繊維リサイクルボードを素材に、サステナブルなデザインをテーマにした「PANECO®EXHIBITION」をデザイナー 五十嵐久枝氏とコレボレーションで開催。
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