今さら聞けない柳宗理。代表作はニューヨーク美術館の永久コレクション
柳宗理は世界に認められた数少ない日本人デザイナーの一人です。
彼が手掛けたデザインは、家具だけでなく生活用品やレコードなど生活に関わるものから、1970年の札幌冬季オリンピックの聖火台、動物園の看板やつり橋など多岐にわたります。
柳宗理の父、柳宗悦は「名もなき職人の手仕事によって作り出された道具こそ美しい」という理念を唱えました。そんな父の考えも受け継ぎ、クールジャパンの魅力がぎゅっと凝縮したかのような奥深い作品を数多く生み出しました。
では、そんな柳宗理の魅力に迫っていきましょう。
日本初の工業デザイナー 柳宗理とは
柳宗理は、キッチン用品やインテリア用品などの日常的に使用するものから、オリンピックの聖火台や東名高速道路の橋梁や地下鉄のベンチなど、ありとあらゆるデザインを手掛けています。
当時だれも美を追求していなかった日用品に目を向け、実質日本ではじめての工業デザイナーとして活躍しました。
彼の代表的な作品のひとつはバタフライスツールです。
まるで蝶が羽ばたいているかのような曲線を描く木製のスツールで、合板を曲げることで強度が増すという技術に着目して作られました。
彼の残した業績は単にデザイナーとしてだけではありません。
彼は教育現場にも従事し、父の柳宗悦がはじめた民芸運動にも力を入れました。
金沢工芸大学では約50年もの間講義を受け持ち、日本民芸館の館長も勤めあげたのです。
まさにバイタリティ溢れる活躍ぶりといえるでしょう。
ル・コルビュジエの影響からデザイナーの道へ
柳宗理は、1915年の東京で柳宗悦と声楽家の柳兼子の間に長男として生まれました。
父の柳宗悦は、当時あまり注目されていなかった日用品に美的価値を見出そうとして民芸運動をはじめた創始者です。
そんな父の影響もあり、芸術に関心を持ち、1934年には東京美術学校の洋画科に入学しました。
柳宗理の二人の弟も美術史家と園芸研究家なので、まさに芸術家一族といえるでしょう。
柳宗理は東京美術学校で、バウハウスにいた水谷武彦の講義を受け、ル・コルビュジエのことを知り、そこからデザインに興味を持ちました。
東京美術学校を卒業した柳宗理は、日本輸出工芸連合会の嘱託社員になります。そこで輸出工芸の指導官として来日していた、フランスの建築家兼デザイナーであるシャルロット・ペリアンの日本視察に同行することができたのです。
柳宗理はシャルロット・ペリアンのアシスタントとして活躍しながら1年以上も日本の各地で伝統工芸を学び、民芸への関心がより一層高まる機会を得ました。
日用品にも美意識を!父から受け継いだ「用の美」
柳宗理を語るうえで外せないのが、彼の父であり民芸運動の創始者である柳宗悦が唱えた「用の美」という価値観です。
用の美とは、道具は使われてこそは美しいという考えで、、丹精込めて造られた使い勝手の良い道具は、それ自体が美しいだけでなく、使い心地と機能美を有しています。
西洋の華美な装飾や高級品も良いですが、使い手が何を必要としているかを真に考え、何度も失敗や作り直しを重ねて完成させる、日本特有の手作業によるものづくり精神を賛美します。
反対に、工場などで大量生産される製品へのアンチテーゼとも読み取ることができます。
柳宗理は最初、こういった父の考え方を受け入れることができませんでした。
しかし、シャルロット・ペリアンとともに日本の随所でものづくりの職人たちのいる現場に足を運ぶうちにいつしか日本の伝統のすばらしさに気づき、父の民芸に対する考えを受け入れられるようになっていったのです。
その後『日本民藝協会』の三代目会長を引き継ぎ、「自分こそが父の最大の理解者だ」と語るようにまでなりました。
柳宗理が手掛けた作品は西洋のような派手さこそありませんが、愛着の湧く機能性に富んだものばかりです。そこからも彼が民芸を重んじていることが感じ取れるでしょう。
トリエンナーレの金賞に輝くバタフライスツール
1957年にイタリアで開催されるデザインの国際展示会『第11回ミラノ・トリエンナーレ』の招待状が日本にも届きました。そこに柳宗理や彼と関わりの深い坂倉準三らが参加したのです。
柳宗理はその国際展示会でバタフライスツールと白磁土瓶を出品し、両方とも見事金賞を受賞することができました。バタフライスツールはニューヨーク美術館の永久コレクションに選定され、数多くの美術館で所蔵されているほど世界中で認められ、愛されています。
そこから彼の名は世界中に広く知れ渡るようになりました。
柳宗理の活躍の勢いはとどまることなく、1980年にはミラノで個展を開き、後に紫綬褒章や文化功労賞を受賞しました。華々しい功績を世に残したのです。
柳宗理の代表作スツール2点
柳宗理が残した作品は、聖火台や動物園の案内板などユニークなものからキッチンツールやインテリア用品などの日常的なものまで多岐にわたります。
さっそく現在も愛される彼の代表的な作品をいくつかご紹介していきましょう。
バタフライスツール
柳宗理は1956年にバタフライスツールを発表しました。
二枚のプライウッドを重ね合わせて金属の棒で連結させた、まるで蝶が羽ばたいているかのような形が特徴です。およそ3年に渡る熟考を経て、山形県の家具メーカー『天童木工』で製造されました。
バタフライスツールは先述したように1957年の『第11回ミラノ・トリエンナーレ』で金賞を獲得し、そのことがきっかけとなりミラノ市近代美術館で個展を開くことができました。
ミラノ市近代美術館で個展を開催するのは当時、イタリア在住のデザイナーでさえ難しいことで有名です。そのことからも、柳宗理が世界でも認められた数少ない日本人デザイナーであることがうかがえるでしょう。
このバタフライスツールは非常に小さくて軽量なため、手軽にいろんな場所に持ち運ぶことができます。場所も取らないため玄関に置けば腰掛けとして使用でき、畳に置けば木製のバタフライスツールと畳が調和して美しい空間を作り出します。
ただ座るだけでなく鞄置きとして使うもよし、トレーや本などを置くサイドテーブルとしても活用できるスツールです。
最初は日本の『天童木工』で製造されていましたが、1999年以降はスイスの家具メーカー『Vitra』でも作られています。
フランスのルーブル美術館にもこのバタフライスツールは所蔵されていて、発表から50年以上たった今もなお世界で人気を誇るアイテムです。
エレファントスツール
エレファントスツールはまるで象の脚のように見えることから『象脚スツール』とも呼ばれています。
制作したきっかけは、柳宗理が自身のアトリエで使う耐久性のある椅子が欲しかったからです。狭いアトリエでも使いやすいようにコンパクトで、スツールをいくつも積み重ねることができる仕様にしました。
おしゃれなスツールでありながらも、シンプルで機能性の高いアイテムです。
そしてこのエレファントスツールの最大のポイントは、世界ではじめて作られた完全一体成型のプラスチックスツールであるということ。
このスツールは1954年に株式会社寿商店で制作されて以降、今までも様々な場面で活躍し、1960年にミラノ・トリエンナーレに出展され、1970年には大阪万博のパビリオンで使用されました。
その大活躍ぶりは柳宗理のアトリエだけにはとどまらなかったのです。
エレファントスツールは廃盤になりましたが、2004年にVitra社により、ポリプロピレン素材で生まれ変わりました。
サイドテーブルとしても使用できる使い勝手の良さと、愛らしいフォルムが今でも世界中を魅了し続けている理由でしょう。
柳宗理が生み出したカトラリーは世界観をさらに広める
柳宗理といえばバタフライスツールやエレファントスツールなどでも有名ですが、生活雑貨も多く手掛けています。
彼がデザインしたステンレスカトラリーは、1974年に販売されてグッドデザイン賞を受賞しました。その決め手はなんといっても使い勝手の良さでしょう。
たとえばスプーンはアイスやスープなど食品ごとにフォルムが違いますが、縦長というよりも横長なのです。そのためとても使いやすく、お皿に残ったものも簡単にすくいあげることができます。
フォークは切れ込みの部分が浅く、熊の手のような形であるため、刺すだけではなく、すくうこともできる仕様です。
このカトラリーはスプーン6種類、フォーク5種類、ナイフ3種類で全部合わせると14種類あります。そしてそのどれもが持つ部分がカーブしており、非常に手になじみやすいデザインになっています。
このカーブ具合も種類によって若干異なり、まさに使い手の立場になって考え抜かれたデザインであるといえるでしょう。
「用の美」を重んじる柳宗理だからこそ完成させることのできた、シンプルながらも使い勝手の良さを追求したカトラリーなのです。
まとめ
今回は20世紀を代表するインダストリアルデザイナーの柳宗理の歩んだ歴史や、彼が生み出した名作の数々を紹介してきました。
柳宗理は画家を目指していながらも、大学在学中にたまたま受けた講義でデザインに興味を持ち始めました。そして縁があってシャルロット・ペリアンのアシスタントとして日本各地の伝統に触れあうことができ、そこで民芸の良さに気づき、日用品や家具をはじめとする様々なジャンルのデザインを手掛けたのです。
道具と正面から向かい合って、使い手の要望をくみ取ったうえで作られる作品はどれも使い勝手が良く、世界中を魅了しています。
一度その道具を手にして使ってしまえば、もうそればかり使いたくなるものばかりです。そんな柳宗理の作品に触れて、用の美の本当の意味を感じ取ってみてはいかがでしょうか。
【参考URL】
・天童木工 バタフライスツール[S-0521RW-ST/S-0521MP-NT] | インテリアショップvanilla (vanilla-kagu.com)
https://vanilla-kagu.com/c/026tendo/gd99
・用の美を極めた世界的デザイナー~柳宗理記念デザイン研究所~ - 金沢について (hakuichi.co.jp)
https://kanazawa.hakuichi.co.jp/blog/detail.php?blog_id=56
・柳宗理 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%AE%97%E7%90%86
・「用の美に徹する」シンプルが美しい、柳宗理のキッチンツールとカトラリー— ILOILO LIFE STORE
・【企画展「柳宗理デザイン 美との対話」/島根県立美術館】戦後日本のプロダクトデザインを確立し、その発展に寄与した功労者の全貌に迫る展覧会。|出雲テラス (izumoterrace.com)
https://www.izumoterrace.com/yanagisouri/
・柳宗理とは?世界で活躍した日本人デザイナーの経歴や代表作品を画像で解説|インテリアのナンたるか (interior-no-nantalca.com)
https://interior-no-nantalca.com/sori-yanagi-and-isamu-kenmochi/
・なぜ柳宗理のプロダクトには温かみがあるのか? 展覧会で見るその美意識|美術手帖 (bijutsutecho.com)
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/21401
・日本デザイン界のパイオニア柳宗理が語る父・柳宗悦と「用の美」の世界|人間力・仕事力を高めるWEB chichi|致知出版社
https://www.chichi.co.jp/web/yanagisouri-industrial-design-yanagimuneyosi-mingei/
・【徹底解説】柳 宗理の人生と作品に迫る | Euphoric " " (ユーホリック) (euphoric-arts.com)
https://euphoric-arts.com/art-2/yanagi-sori/
・柳宗理 | 日本大百科全書 (japanknowledge.com)
https://japanknowledge.com/contents/nipponica/sample_koumoku.html?entryid=2710
・民藝運動 | 現代美術用語辞典ver.2.0 (artscape.jp)
https://artscape.jp/artword/index.php/%E6%B0%91%E8%97%9D%E9%81%8B%E5%8B%95
・いろいろなデザイナーVol.25 ~ 柳 宗理 ~ (hapsent.com)
https://www.hapsent.com/blog/basic-knowledge-of-interior-about-designer/sori-yanagi-vol25/
・Elephant Stool(エレファントスツール)/Vitra(ヴィトラ)/柳宗理(ヤナギ ソウリ) (hld-os.com)
https://hld-os.com/shopdetail/000000000085/
・ステンレスカトラリー (柳宗理) | 箸・カトラリー・箸置き | cotogoto コトゴト
家具の商品
-
MIMOSA Dining Table¥156,200(税込) 〜
-
MIMOSA Bench¥80,300(税込) 〜
-
WELL Round Table¥206,800(税込) 〜
-
CAPRA CHAIR¥67,100(税込) 〜
-
MIMOSA Living Board¥227,700(税込) 〜
-
ANEMONE Vanity mirror¥35,200(税込)
-
DAHLIA Dining side wagon¥145,200(税込)
-
FLAX Shelf 2×2¥181,500(税込) 〜
-
ROOIBOS Full length mirror¥60,500(税込) 〜
-
FLAX Bed【シングル】¥244,200(税込)
-
JASMINE Dining Chair¥66,000(税込) 〜
-
NOSTOS Ottoman¥74,800(税込) 〜