模造品を作る国と評価を受けた戦後の日本で活躍した、デザイナーと名作椅子

模造品を作る国と評価を受けた戦後の日本で活躍した、デザイナーと名作椅子

第二次世界大戦後、アメリカや北欧を中心にインテリアデザインが栄えました。その頃の日本は、技術は高いがデザインとしてはイミテーション(模造品)を作る国、との評価を受けていました。しかし、そのような状況においても日本から国際的なデザイナーが輩出されていきます。名作椅子とともに、デザイナーをみていきます。

 

椅子の歴史について

 

柳宗理

民藝運動の創始者である柳宗悦を父にもち、陶磁器、キッチンツール、家具から、歩道橋、高速道路の防音壁などの大規模建築物まで様々にデザインを手がけ、日本のデザイン、技術力を海外に知らしめたデザイナーの一人といえます。

代表作である成形合板のバタフライスツールは、発表の翌年にミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞しています。7mm厚の2枚の成形合板を、上部のネジと下部の1本のステーで接合するシンプルな構造となっており、解体し持ち運びも易いデザインです。

成形合板で作られた、負傷兵のためのレッグスプリント(添え木)からアイデアを得て、ひねりによって合板の強度が増す特性を活かし、座面がそのまま脚と一体化するデザインが導かれました。複雑な曲面から成るデザインは、加工も難易度が高く技術力が必要なスツールです。

  

剣持勇

代表作のKMチェアは、1964年に日本人の作品として初めてニューヨーク近代美術館の永久コレクションに選ばれています。

家具は籐の原産地である東南アジアで多く用いられていますが、日本のデザイナーと職人によるKMチェアは、細部に渡っての繊細さや、丸みを帯びた造形などが特徴的です。剣持勇が内装を担当した、60年開業のホテルニュージャパンのラウンジのためにデザインされましたが、東京オリンピックを境に増加した訪日外国人に対して、日本独自の美意識やデザインを知らせる役割も担いました。

剣持勇は、若い頃から世界を強く意識しており、特にドイツ人建築家のブルーノ・タウトに大きな影響を受けています。ブルーノ・タウトからは、設計のもとになる規範の重要性を豊口克平と共に学び、椅子について歴史や人間工学的な内容などをまとめた著書『規格家具』を出版しています。また、アメリカで出会ったチャールズ・イームズ新しい素材を使い、量産性の高い家具デザインに取り組むなど開拓的な姿勢にも感激しています。

  

豊口克平

代表作のスポークチェアでは、椅子についての研究と調査のうえで、日本の生活習慣に基づき低い姿勢の座り方を提案しました。

背面のスポークは1本ずつ異なる角度で座枠に穴をあけなければならないなど多く難しい作業量やスポークや脚だけではなく、座を支える枠なども当時は手作業で行うなど、実際の製造には様々な難点があり、一時生産中止となっています。NC加工機や機械設備が一新された1995年に復刻され、以前は2つの部材を中央でつないでいた座面下の楕円の成形合板フレームは、新型プレス機械の開発を受けて一体型の成形合板に変更されました。

通常のウィンザーチェアは、背のスポークとスピンドル加工した脚が厚い無垢の座板に差し込まれています。スポークチェアは、技術の革新によって一つのパーツにできるようになった台座(=座枠)に、背や脚など全ての部材を取り付け、椅子全体の構造を維持している。今では、部材の差込口も加工技術の進歩によって、安定した製造ができるようになっています。

デザインと職人技術、さらに科学の進歩によって実現した椅子といえます。

  

新居猛

シンプルな構造で価格の抑えられているが、座り心地が良く丈夫な折り畳みの椅子ニーチェアXが代表作。ニューヨーク近代美術館の永久コレクションに選ばれ、国際的な評価も高い名作椅子といえます。

  

倉俣史朗

家具や照明器具に独自のデザインを展開したインテリアデザイナー。

ハンカチをふわりとつまみ上げたときの様子をアクリルによって形にした、アクリル製フロアスタンドのKシリーズや、スチールワイヤーのみで構成された椅子How High The Moonが代表作。

 

 
出典
アーティゾン美術館にて
How High The Moon(ハウ ハイ ザ ムーン)
2022年5月18日 筆者撮影

  

1970年代には、パソコンの浸透によって、エミリオ・アンバースのバーデブラ・チェアやドン・チャドウィックのアーロンチェアなどのVDT作業用椅子が発表され、椅子の概念が大きく変化していきます。1980年代になると、イタリアのミラノで開いたメンフィス・ショップがエットーレ・ソットサスらの奇抜な作品を扱うなど、ポストモダニズムが国際的な流れとなります。これを経て1990年代は、スタッキングが可能なロン・アラッドのトム・ヴァックに代表されるような、ミニマリズムなど多様なスタイルが模索されていきました。

  

家具において、日本のデザインも洗練されており、技術の光る名作が多数残されているのですね。 

 

参考文献

『インテリアコーディネーター1次試験合格教本第11版下巻』ハウジングエージェンシー出版事業部

『ストーリーのある50の名作椅子案内』萩原健太郎 , スペースシャワーネットワーク

『天童木工』菅澤光政, 美術出版社

 

 

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