椅子の歴史③   古典的な様式、アート志向、実用主義などが混在する19〜20世紀

椅子の歴史③ 古典的な様式、アート志向、実用主義などが混在する19〜20世紀

 椅子の歴史について、始まり〜中世、中世〜近世の流れを大きく捉えてきました。

(これまでの記事:椅子の歴史① , 椅子の歴史②

今回は19世紀〜20世紀にかけての流れと、植民地支配を受けて独特の成長を遂げたアメリカにおける家具の流れをみていきます。

 

椅子の歴史について

  

19世紀〜の様式 

19世紀前半は18世紀のネオクラシシズム(新古典主義)が引き継がれました。また、19世紀の様式を代表するアンピール様式というスタイルがあります。フランスで起こり、少しずつ変化しながらもヨーロッパ各国に波及していきます。

 

アンピール様式

フランスのナポレオンの支配下の19世紀初頭に起こった帝国スタイル。豪華さや、古代エジプト、ローマ、ギリシャの古典的な様式を再現したネオクラシシズム(新古典主義)の流れを汲んでいます。

代表的な建築物としては直線構成とシンメトリーでまとめられた凱旋門が挙げられます。宮殿内は、ナポレオンのイニシャルであるN文字、ライオン、スフィンクス、白鳥、月桂樹、女神、戦士、ロータスなどのモチーフで装飾されています。

また、家具に関して古代ローマを倣った重厚感のあるものが作られています。木部は黒の塗装で、深紅のビロードや金色の装飾などが多用されます。また、室内装飾で用いられたモチーフが家具にも使用されました。ナポレオンは伝統工芸を支援していたため、ゴブラン織りリヨンの絹織物などの再生にも寄与していました。椅子も古代に倣ったX脚のものが好まれました。

   

リージェンシー様式

19世紀初頭のイギリスで起こったリージェンシー様式。アンピール様式の影響を受けながら、エジプトや中国の異国情緒が取り入れられています。

代表的な家具作家として、トーマス・ホープが知られています。

 

 

トーマス・ホープ

サイドチェア

出典

Attributed to Thomas Hope | Side chair (part of a set) | British | The Metropolitan Museum of Art

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/204752

最終閲覧日:2020.12.5

  

 

ビーダーマイヤー様式

ビーダーマイヤー様式は、19世紀初頭のドイツやオーストリアで起こったものです。一般市民向けの実用的な家具の様式として、アンピール様式の影響を受けつつも、木工機械も利用されるなどモダンな造形はシンプルで機能的です。これらは現代のデザインにも通ずる要素が多いとされています。

 

ネオゴシック

18世紀後半から19世紀初頭のイギリスで起こった、ゴシック様式の再生を謳った運動をネオゴシックといいます。イギリスのビック・ベン(国会議事堂)は、ロマン主義的傾向を取り入れたネオゴシックの代表作と言われています。家具ではコイルスプリングが用いられたり機械生産が導入されるなど、機能性・量産性が高まっています。

 

ビクトリア様式

ビクトリア様式は19世紀後半のイギリスで起こった様式です。過去の様式の模倣や折衷を主とし、保守的な要素が窺えます。

  

 

 

産業革命が進む19世紀のインテリアデザインは、量産化の時代でもあります。しかし、初期の工業製品は低俗的なものが多かったため、イギリスでアーツ・アンド・クラフツが起こります。これはジョン・ラスキンの思想に共鳴したウィリアム・モリスが手工業による良質な製品の製作や販売を実践した運動です。20世期のデザイン思想に大きな影響を与えることとなります。

  

 

出典

ウィリアム・モリス -デザインの軌跡|展覧会・イベントカレンダー|アサヒビール大山崎山荘美術館

https://www.asahibeer-oyamazaki.com/tokubetu/38588/

最終閲覧日:2020.12.5

 

 

アール・ヌーボー

「新しい芸術」を意味するアール・ヌーボーは、19世紀末ヨーロッパを象徴する芸術運動です。アーツ・アンド・クラフツ運動を受けて、ベルギーで始まり、フランス等で栄えました。特徴として、植物を思わせる曲線の多用が挙げられます。作家としては、ヴィクトール・オルタエミール・ガレルイス・ティファニールイ・マジョレルなどがよく知られています。パリのメトロ入り口が有名なエクトル・ギマールや、ベルギーの建築家であるアンリ・ヴァン・デ・ヴェルデは、流れるような曲線で軽やかな印象の椅子なども手掛けています。 

 

ドイツ、オーストリアでは、アール・ヌーボーをユーゲント・シュティル(「若い様式」の意味)と呼んでいます。この運動に先んじて、ウィーンのミハエル・トーネットは1830年代に曲木技術を完成させ、

アールヌーボーの動きを予感させる曲木家具の量産に成功しています。(トーネットのNo.14をこちらの記事で紹介しています:椅子のデザイン①

 

アール・ヌーボーの時代のデザイナーとして有名なイギリスのチャールズ・レニー・マッキントッシュも、ゴシック様式を基本に単純化と様式化を取り入れて、直線的で個性的な家具を造形した。

 

 

出典

Two chairs for the Blue bedroom, Hous'hill, Nitshill, Glasgow(1904)

w42 x h76 x d37.5 cm (each)

Charles Rennie MACKINTOSH

Two chairs for the Blue bedroom, Hous'hill, Nitshill, Glasgow - Charles Rennie MACKINTOSH — Google Arts & Culture

最終閲覧日:2021年2月25日

  

スペインでは、アントニオ・ガウディが20世紀初頭に、独創的な建築を作り上げています。代表作に、集合住宅カサ・ミラ聖家族教会(サグラダ・ファミリア)がありますが、内部装飾とともに曲線を使った椅子のデザインも行っています。うねるような独特の曲線は、自然や人体を模ったものをモチーフとしているとされています。

 

 

出典

建築家・ガウディと漫画家・井上雄彦が出会う、異色のコラボ企画展を六本木ヒルズで開催。

https://www.pen-online.jp/news/art/gaudioue-mori-arts-center-gallery/1

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ゼツェッション(分離派)

19世紀末〜20世紀初頭のウィーンでアカデミズムからの分離を訴え、アール・ヌーボーの影響を受けつつも、実用性のある新しい表現を目指した芸術運動をゼツェッション(分離派)と呼びます。画家のグスタフ・クリムトが提唱者となり、「実用主義」を訴えたオットー・ワグナーが理論立てています。「芸術は機能にのみ従う」と唱えて機能的な家具をデザインしました。その他代表的な作家のひとりにヨーゼフ・ホフマンがいます。形と機能が融合することが重要視される時代のきっかけになる椅子をデザインし、ウィーン工房の立ち上げにも携わりました。

 

Adjustable armchair - Sitzmaschine

Josef Hoffmann

出典

Adjustable armchair - Sitzmaschine - Josef Hoffmann — Google Arts & Culture

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機能主義

アーツアンドクラフツやアールヌーボーは、デザインの工業化に対してアート志向を唱える運動です。それに対して、機械生産による合理的な造形を追求する機能主義の傾向も発展しました。

 

シカゴ派

ルイス・サリヴァンを筆頭とする建築家の機能主義造形理論をシカゴ派といいます。19世紀末のアメリカでは、鉄骨造の高層建築が盛んになります。のちに有機的な建築を生み出すフランク・ロイド・ライトもこの一派に属しました。

 

 

サイドチェア(1904)

フランク・ロイド・ライト

出典

Side Chair - Frank Lloyd Wright — Google Arts & Culture

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ドイツ工作連盟

20世紀初頭にヘルマン・ムテジウスによって結成されたもの。機械と芸術の統一を実践し、機能的かつ経済的なデザインを目指しました。代表的な作家に、建築家であり工業デザインの先駆でもあるペーター・ベーレンス、日本の桂離宮を高く評価し日本文化を世界に紹介したブルーノ・タウトが挙げられます。

 

 

出典

ペーター・ベーレンス

ダイニングルームの椅子

"Speisezimmer" Chair | All Works | The MFAH Collections

https://emuseum.mfah.org/objects/101690/speisezimmer-chair;jsessionid=D32364BB6A731B726CFCC3954D0A685B

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アメリカの様式

アメリカでは、17世紀に本格的な植民地支配が始まってから19世紀前半頃まで、ヨーロッパの様々な建築やインテリアの様式を自分たちの生活に合わせながら取り入れていきます。この頃のアメリカの様式は、17世紀初頭〜1776年(独立)までの植民地時代をコロニアル(植民地)様式、独立後はフェデラル(連邦)様式に分類されます。また、17世紀初頭の素朴なスタイルをアーリーアメリカンとも呼びます。

植民地時代初期は、イギリス、オランダ、ドイツなど、それぞれの出身国の様式を活かした簡素な家具が作られました。しかし、イギリス人の支配が強まると、ウィリアム・アンド・マリー様式クイーン・アン様式ジョージアン様式などのイギリスの様式を活かした家具が広まっていきます。イギリスのウィンザーチェア、クイーン・アン様式ではハイボーイ(脚付きの背の高い衣装箪笥)やローボーイ(脚付きの背の低い衣装箪笥)などが流行しました。

植民地支配を終えた18世紀末から19世紀にかけては、ニューヨークの家具職人ダンカン・ファイフによるアンピール風の家具が人気を博した。同じ頃、シェーカー教徒により、シンプルな造形が特徴的な家具(シェーカー様式)が生み出されます。シェーカー様式の椅子はラダーバックという梯子状の背を持つのものが多く、飾り気のないデザインは現在も好まれています。また、19世紀後半には、スペインのキリスト教徒によってもたらされた簡素なミッション様式が普及しました。

  

 

19世紀は、ネオクラシシズムが引き継がれるとともに、アンピール様式やアール・ヌーボーから派生した様式によって建築やインテリア、椅子のデザインがなされたのですね。また、アメリカの様式は植民地支配の影響を色濃く受けていることからも、政治的な状況も芸術の流行に大きく影響することがわかりました。

 

 

椅子の歴史について

 

 

参考文献

『インテリアコーディネーター1次試験合格教本第11版下巻』ハウジングエージェンシー出版事業部

『名建築と名作椅子の教科書』エクスナレッジ




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