椅子の歴史② 芸術品の1つとして流行が移り変わる椅子
前回の記事では、中世といわれる時代までの椅子の歴史を振り返っていました。
(前回の記事:椅子の歴史①)
今回は現代に向かっていく流れの中で、近世の椅子について記します。
椅子の歴史について
ルネッサンス
13世紀末にイタリアのフィレンツェで起こり、15〜16世紀には全ヨーロッパで栄えたのがルネッサンスという芸術様式です。「再生」という意味のあるルネッサンスは、ギリシャやローマの古典文化の再生を意味しています。家具においても古典的な装飾を施して、シンメトリーが重視されました。椅子は、ダンテが愛用したとされるダンテスカ、高僧の名前に由来するサボナローラという折り畳み椅子、スガベルロという八角形の座面を持つ椅子、カッサパンカと呼ばれる長いすが代表的です。
フランスでは、16世紀初期のフランソワ1世の時代にルネッサンス様式が導入されました。椅子では、当時の流行である大きく膨らんだスカートを着た女性を考慮した、カクトワールという台形の座面を持つものが流行しました。おしゃべり椅子とも呼ばれるこの椅子から、衣服の形態に家具を合わせるような動きもみられます。
イギリスでは、エリザベス様式、初期ジャコビアン様式として独特な広がりが見られます。エリザベス様式の家具は、脚や柱の途中にあるかぶら型の挽物が特徴で、その特徴は椅子にも見られました。
バロック
バロック(イタリア語で歪な真珠を意味する)様式は、17〜18世紀頃に絶対君主制のヨーロッパ各国で盛んになりました。
豪華さを競う芸術様式ともいえるこの様式は、それまでのルネッサンスの秩序ある厳格な規則性を離れ、有機的な流動性が強調されています。
フランスではルイ13世〜14世の時代にあたり、特に14世の時代のものはルイ14世様式とも呼ばれています。ヴェルサイユ宮殿は、バロック様式の象徴ともいえる建築物です。宮廷画家のシャルル・ル・ブランが室内装飾を担当し、ゴブラン織のファブリックスを用いて壮麗な様式に統一しました。家具はアンドレ・シャルル・ブールが担当し、華麗な様式の家具を製作しています。
画像出典
ジョルジュ・ジャコブ 《肘掛け椅子》|第7章 再建された王妃のプチ・アパルトマン|作品紹介|ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展|日本テレビ
最終閲覧日:2020.11.28
イギリスでは、
ねじり脚やらっきょう形が見られる後期ジャコビアン様式、寄せ木や象嵌の技術を用いたウィリアム・アンド・マリー様式がこの時代に相当します。ウィリアム・アンド・マリー様式の家具は、フランスやオランダの影響を受けて脚先が曲線になっており、ウォールナット材が多用されました。
ロココ
ロココ(フランス語で貝殻や石で装飾した築山を意味するロカイユが由来)は、18世紀前半の室内装飾にその特徴が現れるインテリアの様式です。貴族の享楽的生活傾向に基づいた、曲線的で優雅な造形が特徴的です。権力を示す目的だけではなく、貴族の生活の中で実際に使用されました。
ロココ様式では、ルネッサンス〜バロック様式に見られるシンメトリーの原則が細部で破られています。また、淡いソフトな色調が好まれていました。ジェルマン・ボフラン設計のオテル・ド・スービーズ(パリ)はこの時代を代表する室内装飾にあげられます。曲面で壁から天井へと繋がっており、モールディング(金色の繰形)で装飾されています。
家具について、コモード、コンソール、ビューロなどに特色が現れています。ガブリオール・レッグ(猫脚)と呼ばれるS字カーブを描く脚が共通する特徴で、曲線的な構成、繊細な装飾、金色の仕上げが多用されました。
画像出典
André Charles Boulle | Commode | French | The Metropolitan Museum of Art
アンドレ・シャルル・ブールによるコモード
最終閲覧日:2020.11.28
フランスでは、ルイ15世様式とも言われています。ガブリオール・レッグに軽快・繊細な曲線的構成で、寄木細工の装飾などが施され豪華な印象です。椅子に関しては、座や背にクッションを十分に使用しているのも特徴的です。
画像出典
山本和史著, Cabriole Legs-Ⅰ, 岡山大学教育実践総合センター紀要 4(1), 127-136, 2004
論文内 p.128より抜粋
イギリスのクイーン・アン様式の椅子では、同じくガブリオール・レッグが用いられた比較的シンプルなデザインが特徴的です。背板に透かし彫りが施した椅子や、安楽椅子のウィングチェアなどが知られています。
画像出典
山本和史著, Cabriole Legs-Ⅰ, 岡山大学教育実践総合センター紀要 4(1), 127-136, 2004
論文内 p.128より抜粋
また、ロココ期後半に活躍した家具作家トーマス・チッペンデールによる家具は、チッペンデール様式として有名です。脚がガブリオールレッグで背がリボンバックの椅子や、中国風のデザインなどを得意としました。18世紀のヨーロッパではシノワズリ(中国趣味)が流行したため、家具にもその影響が現れました。
画像出典
山本和史著, Cabriole Legs-Ⅰ, 岡山大学教育実践総合センター紀要 4(1), 127-136, 2004
論文内 p.128より抜粋
ネオクラシシズム
18世紀中期以降のヨーロッパは、ルネッサンス以来再び古典的な造形が復活しました。古代ローマ遺跡の発掘などの影響を受けたこの流れを、ネオクラシシズム(新古典主義)といいます。
ネオクラシシズムの造形はルネッサンス期と同じく、シンメトリックで直線的です。また、ギリシャ・ローマ時代の装飾モチーフが多用されます。
家具にはコリント式オーダー、月桂樹などがモチーフに用いられました。椅子やテーブルの脚は溝彫り(フルーティング)を施した丸い断面の細い直線脚、表面装飾は平坦で寄木細工が好まれています。
フランスではルイ16世様式と呼ばれ、フェスツーンという植物を網状に編んだ飾りが用いられました。また、ジャン・アンリ・リーズネルは、ルイ16世様式とも呼ばれる時代にマリー・アントワネットが愛用した家具を作り有名になりました。
画像出典
ジャン=アンリ・リーズネルによるコモード
最終閲覧日:2020.11.28
18世紀後半のイギリスでは、ジョージアン様式として有名な家具作家を輩出しています。
建築家・インテリアデザイナーのアダム兄弟は、古典的なモチーフを使った洗練されたスタイルを生み出しています。家具ではメダリオン(卵形)の背の椅子などが知られています。
ヘップルホワイト様式は、家具作家のジョージ・ヘップルホワイトが創始したスタイルで、シールド(盾形)やハート形のと、四角形の先細りの脚の椅子が有名となっています。
家具デザイナーのトーマス・シェラトンは、彫刻よりも象嵌を多用した、直線的、幾何学的かつシンプルな形態を特徴とするスタイルを築きました。
生活用品としてだけではなく芸術の一つとして、家具も好まれるものが移り変わり、また再流行するなど、時代の流れの中で変化していることがわかります。
椅子の歴史について
- 椅子の歴史① 椅子はいつどのように使われ始めたのか
- 椅子の歴史③ 古典的な様式、アート志向、実用主義などが混在する19〜20世紀
- 椅子の歴史④ 合理的機能的な20世紀以降のモダニズム
- 模造品を作る国との評価を受けた戦後の日本で活躍した、デザイナーと名作椅子
参考文献
『インテリアコーディネーター1次試験合格教本第11版下巻』ハウジングエージェンシー出版事業部
山本和史著, Cabriole Legs-Ⅰ, 岡山大学教育実践総合センター紀要 4(1), 127-136, 2004
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