芸術と技術の統合を目指した
国立デザイン学校バウハウスとその教育課程
前回までの記事では、トーネットに関してまとめてきました。
・トーネットとバウハウス スチールパイプとカンチレバー構造の椅子
ここで登場した、スチールパイプを用いたカンチレバー構造の椅子は、バウハウス出身のデザイナーによって生み出されていました。改めてバウハウスとは何かをみていくこととします。
(以前の記事:椅子の歴史④では、20世紀以降のモダンスタイルを広くまとめています)
バウハウスとは
バウハウス(Bauhaus)とは、第一次世界大戦が終結した翌年の1919年に開校した、国立デザイン学校です。ドイツ・ヴァイマールの美術学校と、工芸学校が統合されて誕生しました。「芸術と技術の新しい統合を目指す」ことを理念として掲げ、初代校長として、当時ドイツ工作連盟に参画していたヴァルター・グロピウスを迎えています。
ドイツ工作連盟とは、1907年、デザインと製造業の隔たりをなくすことを目的に設立された団体です。アーツアンドクラフツ運動の影響を受けて、粗悪品の多い工業製品の質をより高めようと、アール・ヌーヴォーやそこから派生した有機的なフォルム等の美しいデザインを、より機能的・実用的に可能なデザインにしていこうと考えられていました。
バウハウスは当時革新的な試みであったために右翼からの攻撃を受け、不安定なワイマール共和国の情勢も相まって、1925年にはワイマールからの移転を行います。デッサウに移転後、グロピウス設計の校舎を持つ市立学校となり、後からバウハウスの全盛期とも呼ばれる期間へ入ります。その後も、1932年にベルリンへ移って私立学校となるなど、移転を繰り返しますが、ナチスからの弾圧が激化し、1933年には閉校。ドイツ帝国崩壊後に成立したワイマール共和国の時代と重なる、14年間のみの活動となりました。
バウハウスの教育課程
予備教育
バウハウスの教育は、半年間の予備課程で造形の基礎を学ぶことから始まります。この予備課程を大切にしたことは、バウハウスの特徴の1つです。芸術の統合を目指して、全ての芸術に通ずる基礎を学ぶことが重要視されました。
実技(クラフト)教育・基本(形態)教育
その後、本過程において選択した部門において、実技(クラフト)教育と、基本(形態)教育を分離し、それぞれを別の教師から学びます。
実技(クラフト)教育は、石、木、金属、土、ガラス、色彩、織物からの選択。基本(形態)教育は、その部門に関する、材料と道具、デザインとイメージ、空間・理論・色彩・構成、物質、自然に関する、指導と分析・研究、表現からなります。
実技と基本を分ける、つまり具体的なものと形や構成を分けて学ぶことによって、デザインをよりはっきりと見つめられるように組まれており、手工作と芸術の統合が図られています。
建築課程
この課程を経て、職人資格試験を合格した後に、建築課程へと進みます。グロピウスは、全ての芸術の統合を目指し、そのゴールとして建築を位置付けていました。その考えに基づいたバウハウスの教育では、建築を最終目標にして、カリキュラムが組まれました。
マイスターによる授業
アーツアンドクラフツ運動の流れを汲むバウハウスでは、教授はマイスター(最上位の職人の)と呼ばれていました。
設立初期には、芸術評論家で画家のヨハネス・イッテン、画家のライオネル・ファイニンガー、彫刻家のゲルハルト・マルクスが集められています。中でも、ヨハネス・イッテンは、バウハウスデザインの根幹をなすともいえる、各工房に入る前の基礎教育を行う予備課程を担当し、バウハウスの教育の上で重要な人物となりました。デッサウへの移転後は、既に画家として名を馳せていたパウル・クレーや、カンディスキーも、マイスターとして授業を任されています。
テオ・ファン・ドースブルフは、当初バウハウスを「表現のごった煮」と揶揄していましたが、後に学校の可能性に興味を示して、バウハウスで教鞭をとっています。ドースブルフは、オランダのデ・スティル(オランダで起こった、伝統的な様式や装飾を除いて、垂直や水平を強調した幾何学的な形態や空間を追求する、造形主義運動)の中心人物でもあります。
バウハウスの椅子等の家具分野は、デ・スティルの影響を大きく受けているといわれており、スチールパイプなど新しい素材の研究や、工業生産に適した造形などが研究され、様々な名作椅子が生み出されています。
ここでの教育が、後に活躍するバウハウス出身デザイナーの核になっていたり、後の作品にも大きく影響していると考えられます。
参考文献
『歴史の流れがひと目でわかる 年表・系統図付き 新版名作椅子の由来図典』西川栄明, 誠文堂新光社
【youtube】
豊かな暮らしに関して様々にお話しする、YouTubeの配信を行っています。
バウハウスをテーマにした回です。よろしければぜひご覧ください。