WELL life style
#01 ONE KILN(ワンキルン) 城戸雄介さん
新しい試みから生まれた ひとつの窯から笑顔につなげるブランド
性別、年齢、国籍を問わず、現代に暮らす人々が共通して抱いているのは、豊かな生活を送りたいという願望だと思います。ただ、その豊かさは人それぞれ感じ方や求めている事が異なる事も事実です。
100人居たら100通りの生活があります。私達から見て豊かな生活を送っていると感じている人達へのインタビューを通して、豊かな暮らしを送るためのヒントを探っていきます。
新しい試みから生まれた
ひとつの窯から笑顔につなげるブランド
今回インタビューをさせていただいたONE KILN(ワンキルン) 陶芸家の城戸雄介さん。「食卓に太陽を」をコンセプトに鹿児島の土を使い、火山灰の釉薬で独特な風味のあるプレートやカップを作られています。最近は、知識や経験を循環させる美しいサイクルにすることが、社会貢献につながるというラジオのお話に感心されたそう。その観点から、当時、陶芸の世界に入って感じた違和感、そこから試みて生まれたONE KILN(ワンキルン)というブランドについてお話してくださいました。
陶芸の世界に感じた違和感。そこから生まれたワンキルンというブランド
陶芸の世界に入ったとき、その循環のサイクルが歪(いびつ)に感じました。まず思ったのは、陶芸家になる方法が限られていることです。どうしたらいいかイメージできますか?
ーー中川:いいえ、イメージできないです。
街にあるコーヒー屋さん、パン屋さんは、なんとなくイメージできるのに、陶芸家は特殊な印象があります。僕も友人から「お前は山にこもって仙人のような暮らしをする、世捨て人になるんだな」って冗談でからかわれました。
いざ、陶芸を学ぼうと思っても、職業訓練校は「伝統を育てるところです」と落とされてしまい、あとはどこかの窯元に弟子入りするか、大学で専攻する。それくらいしか、その時の自分には選択肢が思い浮かばなかったんです。
僕の場合は、工場に飛び込みました。働きながら、休日はいろいろな職人さんのところに行って勉強しました。ほとんど独学ですね。
だから、陶芸家になることが、どうしてこんなに難しいのか、疑問でした。伝統を引き継ぐことも大事ですが、自分の子供や弟子にしか教えない風習が窮屈に感じました。
僕は昔ながらの方法より、自分の好きな物をのびのびと作りたい。
この工房は、鹿児島中央駅から遠くないし、近くに実家がある、自分が育った場所です。ここで働いてくださるパートの方は陶芸の経験はないし、「空いた時間で、ものづくりをしてみたい」という主婦の方もいらっしゃるんです。街のパン屋さん、コーヒー屋さんと同じように、陶芸に触れる人が増えたらいいなと思っています。
ーー中川:作品は修行されていた、有田焼の手法で作られているんですか。
そうです。手法は有田焼ですね。でも、僕がいた頃の有田焼では、地元の土は使われていませんでした。昔は、良質な土が取れて、その場所で磁器が発展したんですけど、もう取れなくなってしまって。ほとんどの所が、熊本県の天草から土を仕入れているんです。
あと、鹿児島でやり始めたときは、みなさんから「これ薩摩焼ですか?」とよく聞かれました。定義を調べたら、薩摩焼協会に入れば名乗れるみたいなんです。それも疑問でした。
そうして浮かんできた疑問を、自分なりにひとつずつクリアするようにしています。
ONE KILN(ワンキルン)は、そういう疑問を、新しいアプローチで解決できるブランドでありたいと考えています。たとえば、使っている土の場所がわかるように、自分で山から土を掘って、その場所の緯度・経度を刻印しているんです。
コーヒー豆の考え方から来ていますが、昔のコーヒーは「この人のブレンドがおいしい」と言われていたけど、今はシングルの豆を味わってから選ぶ、よりパーソナルな感じになっているじゃないですか。
いろいろなものは、より鮮明になっているのに、陶芸の風通しの悪さを少しずつ良くしたかったんです。ここでは、修行しなくても、パートさんは3ヶ月でがっつり作っていますし(笑)。
ーー中川:疑問をクリアにする行動力が、すごいですね。
たとえば、「おしゃれになれ」って言われたら抽象的で難しいですよね。だけど、「自分がこだわりたい所はどこか?」とか「不快に感じる人はどんな人か?」って聞かれたら、いくつか思い浮かぶと思います。
そういうことを繰り返し考えて、「じゃあ、こうしよう」って、ポジティブな解釈にしていきました。だから、僕が作っているものは、あまりエゴが入っていないんです。形もシンプルで取手とかも持ちやすさ重視だし。透けてピンクっぽく見えるのも、土がもつシンプルな姿を生かすために、クリアとか白い釉薬をかけています。
これからも、いろんなテストを繰り返しながら、素材の特性を生かした器を作りながら、自分にしか表現できないものを作るのは、老後の楽しみで良いと思っています。
ーー中川:そういうことを繰り返して「食卓に太陽を」というテーマにされたんですか?
会社の理念を考えるとき、直接的な言葉で使う人のイメージを窮屈にしたくなかったんです。だから、いろいろ解釈ができるように「食卓に太陽を」というテーマにしました。
あと、ONE KILN(ワンキルン)は「一つの窯」という意味があります。僕は陶芸家になる時、どうしたらなれるかわからなくて、苦労しました。だからこそ、自分の窯を持ったときに「これで自由だ」って、とても興奮しました。この土を焼いたら、桜島の火山灰をかけたら、どうなるんだろう。何を焼いても自由だし、思い付いたことを何でも試せます。それに、昔の友人が「作って欲しいものがあったら、お前に頼むね」と言ってくれたことを実現できると思うと、さらに嬉しかったです。
このロゴには、窯から出る「炎」と太陽の「光」の2つの意味があります。
ひとつの窯があれば、どんな人とも繋がれる。どんなアイデアでも実現できる。そして、火があるところに人が集まり、その一番大きな場所が太陽の下なんだという考えです。
ひとつの小さな火から始まって、だんだん太陽の光のように広がったらいいなという願いと、テーブルを通して、人々の笑顔に寄り添うブランドになりたいという希望の意味も含まれています。人の笑顔もその場を照らす光なんです。
ーー村上:窯の炎も込められてたんですね。初めて知りました。城戸さん自身が持つ、大切な部分からストーリーを紡いで、魅力のあるものを作っているんだなと思いました。
でも、自分の窯を持った時は、自分らしいものとか、自分にしか作れないものとか、そればかり考えていましたね。そういう時って、あまりうまくいくビジョンがなくて。「人のために」。シンプルな発想になったときに、一緒にやろうと言ってくれる人がどんどん増えてきました。ありがたいですね。
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