WELL life style #04 fresco(フレスコ) 辻野剛さん
4. 白浜でのビジョン
性別、年齢、国籍を問わず、現代に暮らす人々が共通して抱いているのは、豊かな生活を送りたいという願望だと思います。ただ、その豊かさは人それぞれ感じ方や求めている事が異なる事も事実です。
100人居たら100通りの生活があります。私達から見て豊かな生活を送っていると感じている人達へのインタビューを通して、豊かな暮らしを送るためのヒントを探っていきます。
WELL LIFE STYLE #04 fresco(フレスコ) 辻野剛さん
3-1. ガラスとの出会い〜アメリカでの学生生活
3-2. アメリカ・イタリアのエッセンス
3-3. アメリカでの出会いと帰国後の生活
白浜でのビジョン これからの取組
大大阪府和泉市に工房を構える、ガラスメーカーfresco(フレスコ)。
吹きガラスの技法を用いた器は、一つ一つ手作りです。工房内では、基本的に二人一組、それぞれのチームが溶解炉から溶けたガラスを巻き取り、下玉と呼ばれる小さな玉を作るところから、息を吹き込み成形、何度も窯と作業ベンチを行き来しながら、仕上げまでの全工程を行います。
代表の辻野さんが、ガラスに魅せられ学び、frescoを立ち上げ、現在もチームで続けるものづくり。今回は、辻野さんが国内外でガラスを学んだ当時のことや、frescoへの想い、frescoのプロダクトやものづくりへの考え方について、また和歌山県白浜町に設けた新たな工房CAVO(カーヴォ)と取組む、新たな挑戦についてなど、3時間にわたってお話を伺いました。
白浜に工房をつくった理由
ーー吉田:拠点を分けようと考えられたきっかけはなんですか?
注文が増えてきて、お待たせする時間が長くなってきたので、制作の場所を増やそうというのがきっかけです。
ここを選んだのは、もちろん海が好きというのもありますが、観光地なんだけれども、ちょっと外しています。観光目的の人が前を通るようなところは、あまり好ましくない。夏の人がいる時期は、声をかけると体験に来てくれるような、そういう距離感で。閑散期は、集中してものづくりできるというのは、ここがばっちり当てはまる場所でした。なので、もう少しいろんなことが落ち着いたら、じっくり自分のものづくりがしたいなと思っているんです。
ーー吉田:それでいくと自分のものづくりは、もう少し先という感じなんですね。
色々な経済がスローダウンしているので、あまり呑気にしているとまずいのかなと思ったり、そういう不安感があって、落ち着かないんですよね。
だから一生こんな感じなのかな。
白浜とガラスの関わり
ここ和歌山県白浜町の1番の観光資源は「白良浜(しららはま)」という白い砂のビーチなんですね。今は、元あった砂がほとんど無くて、表面にはオーストラリアのパースの砂が入っています。
元々は、上の方から全部砂で、砂丘だったんですよ。サンドスキーと言って、砂の上をスキーできるくらい砂がありました。温泉が出てからは、旅館などが多くできて、それらを埋めちゃったんです。
その砂は、上から少しずつ降りてきて堆積して、ビーチを形成してたんですけど、そこを埋めてしまったので、波がさらっていくばかりで減っていきました。それは問題だと、オーストラリアから砂を足しているんですよ。
ーー吉田:なるほど。
それで元々あった砂は、帆船に乗せて大阪に運び、それを原料にガラスを作っていたという歴史があります。それを聞いた時にすごくゆかりを感じて。
あとは、有名な自然学者の南方熊楠(みなかたくまくす)が、白浜の砂を持っていかないようにとやめさせた逸話があります。あの人は、神社仏閣を作るのに森の木を切るのも許さないみたいな、自然保護主義者で。白浜の砂を持っていくんじゃないと言って、やめさせた逸話があります。
ーー村上:彼は出身がこの辺りですよね。
生家は和歌山市ですが、家が田辺市にありました。
昭和天皇が来られたとき、キャラメルの箱に、菌の苔とか標本を入れて献上したという、有名な話もあります。面白い人で天皇にもインパクトがあったんでしょうね。昭和天皇が詠まれた歌に「南方熊楠」とフルネームが入っているものがあります。人名がフルネームで入るようなことはまずないんですよ。これは一大事だということで、番所山公園という記念の場所に石碑がつくられ、南方熊楠記念館もあります。
諸説ありますが、その人が砂を持って行かないよう言ったことに加えて、ここの砂自体もガラス原料としてはそんなにクオリティが高くなかったそうなんですけれども。
なので歴史上、戦争が始まる前までの短い期間だったので、みんなの記憶に残っていなくって、地元の人でも知らない人がいるんですよ。
ただそういう歴史があったにも関わらずガラス工房が無いということで、これは行くべきだと思いました。
白浜での挑戦
新たな観光資源になってもおもしろいかなと考えています。砂からガラスができるということも知らない人が多いと思うので、ガラスのことを知るきっかけにもなりますし、白良浜の白い砂がガラスになっていた歴史を知るきっかけにもなるので、これはやるべきだと感じました。
まだ実現していませんが、いつか白良浜の砂を実際に溶かしてみたいと思っているんですよね。表面はパースの砂ですが、丘の上の方に行くとどこを掘っても砂が出るらしく、旅館の社長さんとか、観光協会の方など、必要ならば協力するよと言ってくださる方もいます。
ーー村上:すごく面白いですね。
やっぱり陶芸家に憧れるんですよね。すごく土着性があるじゃないですか。裏山に行って土を取ってきて、焼いたら焼き物になる。ガラスは、自分で調合する人も一部いますけれどもごく稀で、ほとんどの人が調合されたものを使うので、原料の土着性みたいなものは憧れがあって、ここにいたらそれができるかなと。
ーー吉田:地域と結びついた「ここだからこそ」というようなことは、行くに値するというか、面白さになって、これからますます必要になってきますよね。
そうですよね。行ってみたいっていうのは一番大事ですよね。
これから
このギャラリーもできていないですし、色々なものが中途半端な状態です。工房もまだ7割かな、作業台がもう一台、小さいミニテーブル作らないといけないとか。
ーー吉田:改めて伺うと、一大プロジェクトですね。
白浜は、最後のプロジェクトかなと思ってます。
ーー村上:土地の記憶が感じられるガラスって、すごく面白いですね。
それも場所がちゃんと完成したら、乗り出せるかなと思うんですけれども。
ーー村上:このロケーションだけでも十分にニュースになっていると思うんですけれども、更にそういった砂の話などの文脈が入ってきたら、とても面白いですね。
みなさん面白がってくれたらいいなと思っています。
陶芸と比較してはいけないと思うんですけれども、まだまだガラスの市民権が完全に得られたとは思っていないので。歴史の長さも携わる人口も違いますし、同じようにはいかないとは思いますが、まだもう少しいけるんじゃないかなと思うんですよね。
「5. ものづくりの精神性に繋がる ライフスタイルのこだわり」へ続く
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