WELL life style #04 fresco(フレスコ) 辻野剛さん
5. ものづくりの精神性に繋がる ライフスタイルのこだわり
性別、年齢、国籍を問わず、現代に暮らす人々が共通して抱いているのは、豊かな生活を送りたいという願望だと思います。ただ、その豊かさは人それぞれ感じ方や求めている事が異なる事も事実です。
100人居たら100通りの生活があります。私達から見て豊かな生活を送っていると感じている人達へのインタビューを通して、豊かな暮らしを送るためのヒントを探っていきます。
WELL LIFE STYLE #04 fresco(フレスコ) 辻野剛さん
3-1. ガラスとの出会い〜アメリカでの学生生活
3-2. アメリカ・イタリアのエッセンス
3-3. アメリカでの出会いと帰国後の生活
4. 白浜でのビジョン
ものづくりの精神性に繋がる ライフスタイルのこだわり
大阪府和泉市に工房を構える、ガラスメーカーfresco(フレスコ)。
吹きガラスの技法を用いた器は、一つ一つ手作りです。工房内では、基本的に二人一組、それぞれのチームが溶解炉から溶けたガラスを巻き取り、下玉と呼ばれる小さな玉を作るところから、息を吹き込み成形、何度も窯と作業ベンチを行き来しながら、仕上げまでの全工程を行います。
代表の辻野さんが、ガラスに魅せられ学び、frescoを立ち上げ、現在もチームで続けるものづくり。今回は、辻野さんが国内外でガラスを学んだ当時のことや、frescoへの想い、frescoのプロダクトやものづくりへの考え方について、また和歌山県白浜町に設けた新たな工房CAVO(カーヴォ)と取組む、新たな挑戦についてなど、3時間にわたってお話を伺いました。
「食」への向き合い方
ーー大西:WELL は「豊かな暮らし」をテーマにしていて、ライフスタイルのことも伺いたいと思います。添加物が含まれるものを食べないらしい、とかすごく健康に気を遣われていると伺いました。
ええ、取らないですね。10年くらい前からかな。
ーー大西:何かきっかけはありましたか?
台湾でのワークショップの講師に連続して呼ばれた際に知り合った、インテリアショップのオーナーさんが教えてくれた「farm to fridge」というタイトルのショートムービーがきっかけです。
それは食肉産業の話で、どんなふうに家畜が飼われていて、それがどんなふうに食卓に並ぶかという5分程のショートフィルムなのですが、それをみた時に、人間が食べるものってなんか間違ないか?みたいな風に思って。そういうものに興味を持って、色々と調べるようになりました。
次に出会ったのは、モンサントのとうもろこし。米を作ると政府から助成金が出る日本と同じように、そこでもとうもろこしを作ると助成金が貰えるんですけど。
自分でリプロダクションしてはだめで、モンサントにタネを買いに行かないといけないんですよ。まず、タネを買うと一緒に渡されるラウンドアップという除草剤を撒くと、そこに生えていたものが全て枯れて、更地になります。
そこにタネを蒔くと、それしか生えてきません。完全に遺伝子が組み換えられていて、除草剤にも耐性のある強いとうもろこしが、すごい密度で生まれてきます。それが人体にどんな影響を与えるかという研究はそこそこに、大義名分としてはバイオ燃料を作るためにたくさん作れるというふうに言われています。モンサントのとうもろこしは、直接人間の食卓には上がってこないんだけれども、家畜に与えているんですよ。
牛は、草食動物なので本来穀物を食べませんが、穀物を食べた方が太って大きくなると単価が上がるので、どんどん与えるんですよね。でも消化器系は穀物を消化するシステムになっていないから、病気になるんですよ。その辺りは実験済みで、どこまで与えれば病気にならないかがきちんとデータで出てきています。なので、生後3ヶ月は与えて、それ以降は牧草に変える、出荷間際になったらまた穀物を与えて体重を増やし、競りに出します。
そういうことをやっているので、その牛たちは遺伝子組み換えの影響を必ず受けていますが、その肉を食べて人間に影響がないかどうかはデータが出ていないんです。
そのとうもろこしは沢山できるので、納品に行っても山積みしてあるんですけど、虫もつかない、カビも生えない。それを人間が、間接的に食べているんです。
鶏肉の鶏は、すごくテリトリー意識が強く、近くにきたものを攻撃しようとするので、精神的に攻撃力を衰えさせるような薬も与えているし、怪我させられても、そこは陥没しないように抗生物質を日常的に与えられている。だから鶏を飼っている人たちは、日常的に抗生物質が充満した空気を吸いすぎていて、自分が風邪をひいた時に処方されても効かないといいます。
その鶏の臓物やクチバシなどの捨てるところ、もう死んでしまった個体とかも入ってると思うんですけれども、全てミキサーにかけてミンチにしたものを養殖魚に与えます。すると、脂が乗って太るんですよ。
そういう変な人間が作った食物連鎖みたいなものがあって、なんか騙されて食べているなっていう気持ちが嫌で。人間って結構強くって、もしかしたら全然平気かもしれないんですよ。だけれども、経済至上主義的なものの渦の中で、人間の健康を蔑ろにしたものを美味しいなと食べている自分が嫌で、それで結構気にして食べるようになっていきました。
ーー大西:じゃあお肉とかは食べられないんですか?
肉は、牧草で放牧して飼育されたグラスフェッドをたまに食べます。オーストラリアなどで作っているものです。自分から買って食べることはありませんが、ジビエなどもタイミングがあったら食べることもありますね。
でもここ(和歌山県白浜町)は魚が美味しいんで、魚をメインに食べています。
どの分野にも共通する真の幸せを考えたものづくり
やっぱりものを作っているけれども、誠心誠意作ったものを出したいんです。それは、食べ物も同じだと思うんですよ。
だから、どんなふうに作られたか、人の幸せを考えて作っているかどうかというのは、食べ物であろうが、クラフト製品であろうが、物に現れると思うんですよね。
やっぱりそうではないものを「美味しかったらいいじゃん」というふうに食べると、少し偽善を感じるというか。自分がやっていることは正々堂々とやっているんだったら、他のものづくりにもそういう、スタンスで対していた方がいいんじゃないかと思っています。
だって本当に人の幸せを考えたら、そんな食べ物って提供できないですよね。競争世界の中で、人の幸せだけを優先して食品産業に参加していくと、経済性があまりにも悪くて負けちゃうんでしょうね。だから数の原理、たくさん見た目良く、沢山できるノウハウが生まれていく。
日本って農薬の消費量は世界第二位なんですよ。
ーー村上:こんなに国土が狭いのにですか。
はい。一位が中国で二位が日本です。
ーー吉田:自分の作っているものを誰が食べているかなんて知らないし、自分では食べないっていう人もいるくらいですよね。若い農家の人たちはそれが嫌で、変えていこうという動きもありますけれども。JA全盛の時代は、JAに入れてしまえばお金になりますし。今でもその仕組みが残っているから、農薬がなかなか減らないんでしょうか。
そうですね。
生態系がおかしくなります。frescoで一時期養蜂をやっていたんですよ。全部いなくなりましたけどね。
防虫に使われる農薬で、ネオニコチノイド系というものがあります。ヨーロッパではほぼ禁止されているんですけれども、日本は相変わらず使っていて。それを使うと蜂の頭のコンパスが崩れて帰巣本能がなくなり、巣に戻れなくなるみたいなんですよ。それで、段々巣が痩せていって、全体がダメになる。これははっきりと言われているのに、使うことをやめない。
和歌山は梅が有名ですが、やっぱり薬を撒くんですよね。でも、蜂がいなくなったら梅ができないと思うんですよ。それを薄々わかっていて、惰性で続けているのかなと感じますし、最終的に自分達の首を絞めることになると思うんです。
こないだ聞いた話によると、その日何時に薬を撒くかを告げる放送があって、その時間は小学校の校庭で遊ばないというようなこともあるらしいんですよ。
他の果物も同じだと思いますが、それくらい密集して作っているんですね。
ものづくりと精神性の関わり
ーー村上:10年前にきっかけがあって食事にこだわるようになったということですが、それを知る前も、自分が整っている状態でないとものづくりに影響するというのは感じられていたのですか?
関係あるかもしれないですね、自分の精神性とものづくりみたいなことは。
アメリカに行って、食べ物を選ぶということの意味みたいなものを初めて意識しました。
アメリカ人は若い人でも糖尿病の人が多いんですよ。オレゴンの学校に行った時ですが、血糖値が上がらないものを選んで食べていた人がいて、なんか面白いなって思って。ただ血糖値が上がらないものをミックスして食べているわけでもなく、色々と工夫して自分で作っていて。
自分もやってみようと、ベジタリアン的なものですが、血糖値が上がらないもの食べるようになりました。
これがどう体に作用するかを考えて選んで食べるというようなことを初めてやってみたら、結構面白くて。やっていると、自分がクリーンになっていくような、精神や体が安定するというか、そういう作用があると実感した記憶はありますね。
ーー村上:僕も辻野さんほどではありませんが、8年程毎朝ヨガやっているんです。自分を見つめる作業なので、気持ちの浮き沈みも含めて、何が自分に影響しているのかすごくわかるようになったんですよね。
食べ物の影響も大きくて、コンビニに行かなくなったりとか、色々と気を使うようになって。ヨガ自体でも随分気持ちが安定したんですけれども、食べ物も変えていったりとか、人とのお付き合いの仕方、仕事の仕方みたいなところにも影響を与えて行ったので。僕もその辺り実感としてありますね。
自分がクリーンでいることのメリットって、思う以上に精神性に影響しますよね。
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